防災を扱うのは理科だけではありません。
今回は各出版社の「道徳の教科書」に載っている防災に関するお話を調べてみました。
ご自分の学校で採用している教科書にはどんなお話が載っていますか。
教科横断的な考えで、生徒に「こんなお話が載っています。」と一言伝えるだけでも、防災に対する視野を広げる事になるでしょう。
日本文教出版「中学道徳 あすを生きる」の場合
日本文教出版で出している「どうとくのひろば No.29」に、福島信也先生(森ノ宮医療大学教授)が特別寄稿「防災学習から道徳科の授業へ」という記事にまとめていらっしゃったので、それを紹介します。
1年「震災を乗り越えて ー復活した郷土芸能ー」
(C「郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度」)
東日本大震災で津波の被害を受けた中学生たちが、地域の方々に協力してもらいながら手作りの衣装で郷土芸能を復活させようとする姿を描いています。地域を愛することや地域のために自分たちができることについて考えられる教材です。
2年「避難所にて」
(A「節度、節制」)
阪神・淡路大震災での避難所生活の中、全国から来てくれたボランティアの姿を見て、力を合わせることが生きるうえで欠かせないということに気づく主人公の姿が描かれています。
コラム「つながりを減災に生かすために」
関連させて、避難所生活や日頃の備えについて考えさせることもできます。
3年「『稲むらの火』余話」
(C「郷土の伝統と文化の尊重、郷土を愛する態度」)
多くの村人を大津波から守った主人公(濱口儀兵衛)の活躍だけでなく、後日談も取り上げているので、地域に貢献していきたいという主人公の強い思いを学ぶことができる教材です。
3年「塩むすび」
(B「思いやり、感謝」)
東日本大震災で被災した主人公が避難所での食事かかりを担当するという経験から、人との関わりの深さや温かさ、支え合うことを学び、成長していく姿が描かれている教材です。
コラム「自分の命を守るために」
関連させて、自然災害での自助・共助について考えさせることもできます。
東京書籍「新訂 新しい道徳」の場合
東京書籍にはその名もズバリな「防災道徳」という教授用資料があります。まずはそれを紹介します。
防災道徳(実践例1)「避難する?避難しない?」
(D「生命の尊さ」)
大雨が降ったとき、避難するか家に残るかについて話し合うことを通して、命の大切さについて考え、災害から命を守るための道徳的な判断力を養う。
防災道徳(実践例2)「ガソリンを求めて」
(D「生命の尊さ」)
日常生活で生命に対して真剣に考える経験の少ない生徒が、避難中に起きる生命の危機が差し迫った葛藤場面において自らの判断を下すことを通して、自他の生命を尊重する道徳的な態度と判断力を養う。
防災道徳(実践例3)「高い所に引っ越す?引っ越さない?」
(D「生命の尊さ」)
自然災害から命を守るために高台に村を移転するかしないかについて話し合うことを通して、命を大切にする道徳的な態度を養う。自分たちが住んでいる地域で過去に起きた災害について知り、自分事として考えるとともに、地域社会への思いや理解を深める。
東京書籍は「節度、節制」と防災を結びつけて考えさせる教材が多いです。
「一冊の漫画雑誌」は葛藤場面はないかもしれませんが、「もしも~」という仮定で、防災とつなげることができると思います。
1年「山に来る資格がない」
(A「節度、節制」)
ある学校の行事で宿泊学習に来ました。翌日に登山を控えながらも、少年5人はろくに眠らずに遊んでしまいます。翌朝、登山に出発したものの、みんなに迷惑をかけてしまいます。
1年「桜に集う人の思い」
(D「自然愛護」)
2年「田老の生徒が伝えたもの」
(A「節度、節制」)
2年「住みよい社会に」
(C「社会参画、公共の精神」)
3年「スマホに夢中!」
(A「節度、節制」)
3年「一冊の漫画雑誌」
(B「思いやり、感謝」)
震災直後、物流が止まり、支援物資も乏しく、子供たちから楽しみや娯楽が失われています。そんななか、ある本屋さんが一冊の漫画雑誌を無料で読めるようにしました。
防災道徳には「考え、議論する」コミュニケーション力が大切になる
教科化にともなって、道徳は「特別の教科 道徳」となりました。そして「考え、議論する道徳」という言い方もされます。単に資料を読んで感心するだけではいけなくなりました。
新学習指導要領「道徳」では、「よりよく生きるために道徳的価値に向き合い,いかに生きるべきかを自ら考え続ける姿勢」を育成するとなっています。
「特別の教科 道徳」では、①道徳的諸価値について理解する、②自己を見つめる、③物事を多面的・多角的に考える、④自己の生き方について考えを深める、ことが求められます。
防災教育で大切なことは、いろいろな人とコミュニケーションを取る態度・能力を身に付けさせることです。
防災に正解はありません。どのぐらいの津波が来たら避難するのか。避難所で大切なことはなにか。
それが分からないからこそ、いろいろな人とコミュニケーションをとって情報を集め、自分自身の責任で判断を下さなければならないのです。
そのため、道徳資料でよく使われる手法の「葛藤場面」として、災害にかかわる道徳的葛藤を取り上げるわけです。
災害は自分の命や人生に大きく関わるため、生徒たちもそのシチュエーションのなかでさまざまなことを考え、議論するようになります。
自分の考えを持ちつつも、他の人はどんな考えを持つのか聞いた上で、自分で答えを決めることが求められるのです。
これが「考える防災」です。
これからの防災教育は、従来の防災グッズ等の「物の防災」、避難訓練等の「行動の防災」に加えて、さまざまな情報から「考える防災」が求められます。
「特別の教科 道徳」は、防災道徳として有益な教科になり得ます。
これからも、いろいろな出版社の道徳の教科書を見てみようと思います。