神経言語プログラミング「NLP」とは
NLPとは「Neuro-Linguistic Programming」の略、神経言語プログラミングと言われる心理療法です。
NLPのすべてを説明しようとするとキリがありません。私自身も勉強の途中ですので、今のところ詳しくは他書・他サイトにお任せしたいと思います。
ここでは、NLPの手法をいかに学校の授業に生かすのか、私なりに説明したいと思います。
3つの「優位感覚」とは
NLPのなかに代表システム(優位感覚)という考え方があります。最近の言葉だと「認知特性」と同じようなものです。
人にはそれぞれ右利き、左利きがあります。手だけでなく、足にも利き足というのがあります。箸をもったり、ボールを蹴りやすいといったところで実感しますね。
それと同じように、優位感覚とは、その人が得意とする感覚や使いやすい感覚のことです。
人は感覚を通して、外界(環境や他者)とつながっています。人はその外界から影響を受けたり、こちらから働きかけたりして生きているわけです。そしてその際に、使いやすい感覚というのがあるのです。
そこで、人間の五つの感覚を、視覚、聴覚、体感覚(触覚と嗅覚と味覚を合わせる)の3つに分けて、どの感覚を使うのが得意なのか調べて、コミュニケーションに生かそうとする考え方が代表システムという手法です。
NLPではこの3つの感覚、すなわち視覚(Visual)、聴覚(Auditory)、体感覚(Kinestic)の頭文字をとって「VAKモデル」と呼んでいます。
4つの「学習スタイル」とは
優位感覚をさらに発展させて、学習スタイルとして4つに分類します。
4つとは視覚優位、聴覚優位、体感覚優位、言語感覚優位(Auditory Digital)です。先ほどのVAKモデルにAuditory Digitalを付け加えて、VAKADモデルと呼ばれます。
あたらしく出てきた言語感覚優位にオーディトリーとあることから、これは聴覚優位と関連があります。
人はこの4つの感覚を使って、あるいは4つの感覚を通して、さまざまなことを学習しています。どれか一つだけということではなく、その中でも使いやすい感覚というのが、人それぞれにあります。
これらの特徴は、学習したことを思い出す、記憶を呼び起こす(想起する)ときにも現れてきます。
一つ簡単な例を挙げます。みなさんもやってみてください。
あなたは「クリスマス」という言葉を聞いて、何を連想しますか?
あまり悩まずに、頭に浮かんできたものを大切にしてください。次のようなことが言えます。
- 赤、白、緑の色やイルミネーションを想起する人は「視覚優位」
- ジングルベルやクリスマスソングを想起する人は「聴覚優位」
- ケーキの味やパーティーの楽しさを想起する人は「体感覚優位」
- クリスマスの計画や段取り、プレゼントのリストを想起する人は「言語感覚優位」
いかがでしょうか。近くの人にも聞いてみてください。一つの質問だけで分かるわけではないですが、それぞれ違いがあることに気がつくと思います。
逆に言えば、「クリスマス」を覚えようとしたときに、その感覚を通して「クリスマス」を学習したということでもあります。

4つの「優位感覚」の特徴について
簡単に特徴をまとめてみると、以下のようになります。
視覚優位
物事を絵や図で理解します。パッパッと見た目で判断ができます。
勉強方法としては、色分けやチャートが有効です。
聴覚優位
話をするのが大好きですが、うるさいと集中できません。物事を順番に記憶するのが得意です。
勉強方法としては、従来の授業や講義形式が合っています。
体感覚優位
物事をからだで理解しようとするため、理解するまでに時間がかかります。
勉強方法としては、実験やロールプレイ、パソコンを使った学習が合っています。
言語感覚優位
自分で考えたり、他者と話し合ったり発表したりするのが得意です。
勉強法としては、マインドマップや自分なりの方法を作り出していかないといけません。
このように、得意とする勉強方法が違っています。
ちなみに、聴覚優位と言語感覚優位は似ているようですが、聴覚優位が外的対話(会話)を好むのに対して、言語感覚は内的対話(内省)を好みます。
どちらも議論はしますが、自分以外の他者と交流するためか、自分の考えを深める材料を得るためか、と目的が違っています。
「優位感覚」の変化は学習と成長の証
優位感覚は変化することがあります。学年が変わるなどしたら、再テストして調べたほうがいいと思います。1年ぶりにやってみると、同じ問題でも答えが変わっていて面白いです。
そして鍛えたい感覚を意識的に使うことで(使わせることで)、優位感覚を変えていくことができます。
どの優位感覚が優れているということはありません。さまざまな対応(学び方)ができるようになるという意味で、学習であり、成長でもあります。
先ほどの「クリスマスと聞いて連想すること」を例にしますと、小さい子供と大人で違いが見えてきます。
一般的な傾向として、幼い子供は体感覚優位を示すことが多く、大人になるにつれて言語感覚優位を示すようになります。
考えてみれば、子供たちはクリスマスの雰囲気、当日の楽しいイベントを楽しむだけです。すこし大きくなると、流行のクリスマスソングを気にしたり、人気のイルミネーションスポットに出かけたりします。少しずつ、クリスマスの楽しみ方が変わってきますね。大人になるとケーキを予約したり、プレゼントを準備したりするところからクリスマスを意識します。
このような変化が、いいとか悪いとかは言えません。大人だって、クリスマス当日は視覚も聴覚も体感覚も使ってパーティーを楽しんでいます。つまり、クリスマスをいろいろな面から楽しんでいる(学んでいる)とも言えます。
この優位感覚(VAKADモデル)を生徒理解に利用して、より有効な授業を組み立てよう。というのが私の考えです。
「優位感覚」を授業にどう生かすか?

ここからが記事の本題です。
NLPのVAKADモデルをどうやって授業で生かすのか考えてみます。
まず今までの授業を振り返ってみましょう。
Q1 授業で生徒を指名するときに、どのような理由で生徒を指名していますか?
もしかして、こんなことはありませんか。
テストの点数が高い生徒、点数が低い生徒、学級委員を務めている生徒、今日の日付と出席番号が同じ生徒、たまたま目があった生徒、たまたま目をそらしていた生徒、忘れ物をした生徒…。
それでは指名されることに納得できる根拠がありません。
結果、「分かりません」という安直な返答や、無駄な沈黙の時間、聞いていなかった生徒にもう一度説明する時間で終わってしまいます。
あるいは、わかる子だけが発言して進んでいく授業になってしまいます。
「優位感覚」を用いると、根拠のある指名ができます。
たとえば、
- 色や形を答えてもらうときには「視覚優位」の生徒
- どのような音が聞こえたか説明してもらうときには「聴覚優位」の生徒
- どんな手触りだったか答えてもらうときは「体感覚優位」の生徒
- 考察に書いたことを発表してもらうときには「言語感覚優位」の生徒
というように、その生徒が得意とする感覚を利用して、それを引き出すように指名をするのです。
Q2 理科室で授業を行うとき、どのような意図で座席に座らせ、実験班を編成していますか?
もしかして、こんなことはありませんか。
教室と同じ。出席番号順。男女別。成績の高い生徒をリーダーにしている…。
それでは班編成に納得できる根拠がありません。
結果、生徒からの不満の声があがったり、リーダーの生徒の負担だけ増えたり、要注意となる班ができたりします。
「優位感覚」を用いると、根拠のある班編成ができます。
各班に4つの優位感覚をもった生徒が分かれるように座席を指定しましょう。(もちろん、男女比や人間関係も考慮に入れて構いません。)
こうすると、
- 反応の様子を細かく見ているのは「視覚優位」の生徒
- 手順を確かめるのは「聴覚優位」の生徒
- 実験を率先して行うのは「体感覚優位」の生徒
- 実験の目的を考え考察に結びつけようとするのは「言語感覚優位」の生徒
というように、班の中で役割分担が行われます。
また、実験結果をまとめる場合でも、
- 図に書いて説明するのは「視覚優位」の生徒
- ほかの班の意見を取り入れようとするのは「聴覚優位」の生徒
- ジェスチャーで説明しようとするのは「体感覚優位」の生徒
- みんなの意見をまとめて考察を深めるのは「言語感覚優位」の生徒
というように、互いを補完するような学習が行われます。
クラスの優位感覚の分布が偏っている場合でも、班のメンバーで足りない優位感覚の能力を互いに開発していくことができます。足りていない優位感覚が分かっていれば、教師からの支援(声掛け)も意図的にできます。
もしくは、あえて聴覚優位の生徒に図で説明することを求めることで、能力を開発したり、周囲からの支援を引き出して交流をさせることも意図的にできます。
優位感覚を使うと教師の意識が変わる

優位感覚を導入すると、先生の意識に大きな影響を与えます。
今までの成績が優秀な生徒、発言力のある生徒、リーダーの生徒が中心になって進めてきた授業が変わります。
生徒を点数という一つの物差しで測ることは分かりやすいです。そのメリットも重要性も、入試制度など社会からの要請があることも認めます。
しかしその反面、その物差しから逸脱してしまう、できない子、理解の遅い子、書けない子、発表できない子、おしゃべりばかりしている子…、私たち教師がついしてしまいがちなそういうネガティブな生徒の捉え方を変えることができます。
(ADHDだから仕方がない…)(学習障害だからどうしようもない…)、医師の診断を受けたわけでもないのに勝手に都合のいい診断名をつけて安心してしまう、言い訳してしまう自分を変えることができます。
生徒の見方が変わる
それが、「優位感覚」という物差しです。
生徒の見方が変わります。
ネガティブな見方をしていたその子は、もしかしたら…、
- 「視覚優位」であるために、見ているだけで自分から手を出そうとしないのかもしれません。
- 「聴覚優位」であるために、おしゃべりはするのに自分の意見をまとめられないのかもしれません。
- 「体感覚優位」であるために、言葉にするのが遅かったり、納得するのに時間がかかっているのかもしれません。
- 「言語感覚優位」であるために、考えているのになかなか発言をしないのかもしれません。
生徒を「優位感覚」という4つの視点で見ることで、より肯定的に生徒を捉えることができるようになります。
- 「視覚優位」の生徒は、誰も気づいていない見方に気づいているかもしれません。
- 「聴覚優位」の生徒がみんなに話しかけることで、授業を活性化しているかもしれません。
- 「体感覚優位」の生徒は、みんなが腹から納得する表現を見つけ出すかもしれません。
- 「言語感覚優位」の生徒が、みんなの意見をまとめて整理してくれるかもしれません。
生徒の可能性を期待することができれば、授業は前向きに進むようになるでしょう。先生がポジティブであれば、生徒も授業もポジティブになっていきます。
自分の授業を変えていくことができます。それが「優位感覚を用いた指名と班編成」です。
発問の仕方が変わる
発問一つとっても「反応したとき、なにが起きましたか?」というシンプルなものではなく、
- 「反応したとき、なにが見えましたか。」と変えるだけで、「視覚優位」の生徒は答えやすくなります。
- 「反応したとき、なにが起きたか隣の人と話し合ってみましょう。」と指示するだけで、「聴覚優位」の生徒は意欲的に活動します。
- 「反応したとき、なにが起きたか絵で描いてみましょう。」とすれば、「体感覚優位」の生徒でも表現できるかもしれません。周りの生徒が助け舟を出してくれたりします。
- 「反応したとき、何が起きたか班で説明してみましょう。」と指示すると、「言語感覚優位」の生徒はがぜん燃えるかもしれません。言語感覚優位の生徒が複数いると、激しい議論が起きたりします。
ちょっとした工夫ですが、これだけで生徒の優位感覚を刺激して、授業に対して意欲的になります。
授業に参加できた生徒は、自分への肯定感、受容感が高まります。クラスへの所属感、貢献感を高めるようになります。
生徒同士の学び合いが促進し、練り上げが活発になり、好循環が生まれるようになるでしょう。
授業の組み立てが変わる
実験のまとめのときも、最初から成績のよい生徒に言わせるのをやめてみます。
まずは「聴覚優位」の生徒何人かに聞いてみよう。そのあと「言語感覚優位」の生徒を指名してまとめてもらおう。その間に「体感覚優位」の生徒が書けているかどうか机間巡視しよう。「視覚優位」の生徒が絵を描いていたら、みんなに見せられるといいな。というように組み立てることができます。
優位感覚を授業に取り入れることで、こんなふうに先生の動きが変わってきます。
そのようななかでこそ、先生の授業の工夫がさらに生かされるようになります。
あの生徒の学習スタイルを生かすためにはどんな授業がいいのか、という生徒中心の発想で授業が作れるようになってきます。
流行っているからタブレットやプロジェクターを授業で使ってみようかな、ではありません。
タブレットを使うとどんな学習スタイルの生徒にとって有効な学習になるのだろうか、という考えで導入を検討するようになります。
生徒のリアクションを想像すると、授業の工夫が楽しみになりますね。
優位感覚テストのダウンロードはこちら
以下のファイルをダウンロードして、印刷してください。
“【NLP】優位感覚テスト” をダウンロード vakad-test.pdf – 33855 回のダウンロード – 250.53 KB以下はPDFを画像にしたものです。クリックすると大きくして見られます。
1ページ目がテストになっています。
2~3ページ目は採点方法と、優位感覚ごとの特徴と学習効果を高めるアドバイスになっています。2~3ページは縮小してA4一枚に収めると、1ページ目の裏に印刷して使用できると思います。
このテストは簡易的に「優位感覚(学習スタイル)」を調べるためのものです。NLPの専門書にはさらに詳細なテストがあるようです。
簡易版でも学校現場では十分に使えるものだと思います。わたしは4月の授業開きで実施することが多いです。
繰り返しになりますが、「優位感覚(学習スタイル)」は変化するものであり、大きなヒントにはなっても絶対的なものではないことを留意してください。
先生方もNLP、優位感覚を利用して、授業改善を図ってみてはいかがでしょうか。