【初任研】43「児童生徒理解」へのコメント

 初任者研修

初任研担当として、初任者の先生方の報告書にコメントを書いています。

指導の先生とのやり取りや、教室での実践を通して、皆さんが日々たくさんの学びを積み重ねている様子に、励まされる思いです。

この記事では、報告書には書ききれないような視点から、わたし自身の経験も交えてメッセージをお届けしています。

少し立ち止まって考えたいとき、ふとヒントが欲しくなったときに、気軽に読んでいただけたらうれしいです。

 

「児童生徒理解」へのコメント

私としてはですが・・・私は「褒めること」を手放しに良しとは考えていません。

褒めることは報酬を与えることです。そのため、褒められるからやる、褒められないからやらないという生徒を育ててしまいかねません。

先生からの報酬とは、成績や評価だけではありません。先生に褒められる=「特別な存在」=「優位な立場」を作ってしまいます。

褒められない生徒との溝を作り、上下のヒエラルキーを作ってしまうのです。叱るのも同様です。

以前、「先生の周りに集まってくる生徒の、向こう側にいる生徒に目を配ってください。」と話したこともありました。先生に近づけない生徒もいるのです。

子供は大人の関心を引くために、良いこと・悪いことをしようとします。特別になれば存在を認められると思っているのです。

つまり、ひとりの失敗に対して注意を与えてはいけないのです。代わりに、一人の成功に対してクラス全員を褒めます。

できれば褒めるのではなく、感謝を伝えます。「○○ができたのは、みんなで声をかけてきたからですね。ありがとう、先生も嬉しい。」というような。これは、アドラー心理学の影響です。読んでみてください。

 

コメントの背景

「私は『褒めること』を手放しに良しとは考えていません。」

見すると少し厳しい内容に見えるかもしれません。しかし、これには私自身がこれまで学校現場で経験し、考え続けてきた「生徒指導の本質」が深く関係しています。

 

「褒める」は報酬であり、依存を生む

学校現場では「褒めて伸ばす」指導が重視されることがあります。もちろん、肯定的な声かけは大切です。しかし私は、褒める行為、注目する行為を「報酬」として扱うことに危機感を持っています。

なぜなら、

  • 褒められるから頑張る
  • 褒められないからやらない

という状態が生まれ、子どもの行動が「他者評価への依存」になりかねないからです。

教師からの報酬は、成績や評価だけではありません。
「先生に褒められた」という事実もまた、子どもにとって大きな報酬です。

そこには、

  • 自分は“特別”になった
  • 他の子より上に立てた
  • 先生に選ばれた

という優位感やヒエラルキーを生み出す危険があります。

こうした構造は、褒められなかった子との間に静かな溝をつくり、生徒同士の関係性にも影響します。

  

「先生の周りに集まる子」だけを見てはいけない

私は以前から、若い先生に次のような話をすることがあります。

「先生の周りに集まってくる生徒の、向こう側にいる生徒に目を配ってください。」

先生に近づける子は、親しみやすかったり、積極的だったり、コミュニケーションが得意だったりします。

しかし、少し距離を置く子、声をかけづらい子、存在感が薄い子…そうした子どもたちこそ、より丁寧に目を向ける必要があります。

褒める指導は、ともすれば「先生に近づける子だけが恩恵を受ける指導」になりかねません。
だからこそ初任者には、褒める行為が生む「見えない格差」に早く気づいてほしいのです。

  

子どもは「関心」を得るために行動する

子どもは、大人から注目されるために良い行動も悪い行動もします。

  • 褒められれば「良い子の役割」を演じる
  • 叱られれば「問題児の役割」を演じる

どちらも、大人の関心を得るための行動です。つまり、大人の評価軸が強いほど、子どもの行動は「自分の意思」より「先生の注目」で左右されてしまう。

私は、その構造から子どもを解放したいと常に考えてきました。

  

「褒める」の代わりに「感謝」を使うわけ

そこで私が初任者にすすめているのが

「褒めるのではなく、感謝を伝える」

という方法です。

  • 個人の成果を過度に称賛するのではなく
  • その行動がクラス全体にどう貢献したかを言語化し
  • 教師自身がその「協力」に感謝を伝える

例えば、

「○○がうまくいったのは、みんなが声をかけ合ったからですね。ありがとう、先生も嬉しいです。」

このような言い方は、

  • 上下の関係を生まない
  • 特別扱いを生まない
  • コミュニティの一員としての「貢献」を認識できる
  • クラス全体のまとまりを育む

という大きなメリットがあります。

これはアドラー心理学の考え方に通じる部分でもあり、私が教育現場で実感してきた指導のコツでもあります。

 

初任者に伝えたかったこと

今回のコメントで私が一番伝えたかったのは、

「褒めること自体が悪いのではなく、その裏にある“選ばれる構造”に気づいてほしい」

ということです。褒めることは悪ではありません。しかし、褒め方を誤れば、生徒同士の関係性や自己概念に影響を与えてしまいます。

初任者の先生が「全員を育てる目」を持って指導できるように、そして「目の前の行為」ではなく「教育の構造」を見られるように、少し踏み込んだメッセージとして書いたコメントでした。