令和2年度は、令和3年度(平成33年度)からの新学習指導要領の全面実施に向けての、移行期間となります。
各学校で生徒たちの学習にモレが無いように、十分に内容を確認しておく必要があります。
東京書籍のサイトに「(中学校理科)新学習指導要領 移行期の指導計画と指導のポイント」が掲載されています。この資料は4つの領域ごとにまとめられているので、学年ごとにまとめなおしてみました。
ここでは、第3学年の移行内容について書いていきます。3年生は最後の単元がはいるため、少し長いです。
【エネルギー】運動とエネルギー
「2力のつりあい」が1年生の「身近な物理現象」へ下りました。代わりに「水中の物体にはたらく力」が上がってきました。改定のたびにいじられている気がしますね。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「探究の過程を振り返る」ことは、落下運動について調べた際、水平面上で一定の力を加え続けた物体の運動と比較することが例示されています。
これまでの学習を振り返るので、直前の水平面の運動と比較することで、速さの変化の割合がちがうことに気がつかせるのは大事ですね。わたしとしては、斜面をくだる運動の実験も入れて、3つで比較させたいと思います。
たとえば、このような感じでしょうか?忘れている生徒にはワークシートをめくらせて思い出させたいところです。

落下運動の実験をしてみましたが、前にやった斜面の実験と比べてみるとどうですか?さらに、水平面の実験と比べてみると、その違いが浮かび上がってきますね。
力のつり合いと合成・分解
「2力のつり合い」を1年生ですでに習っています。そうすると「力の合成・分解」とあわせて、3年生でも「水圧・浮力」が学習しやすくなります。
「水圧・浮力」は、生活に密着しています。どうして浮くのか・浮かないのか、素朴な疑問は大事にしたいものです。
そして、水圧を学んでおくと、宇宙の話にもつながります。魚が陸に上がって水圧を受けなくなるのと、人間が宇宙空間に飛び出して大気圧から開放されるのは、ほぼ同じ圧力変化だからです。
運動の規則性
変更ありません。
力学的エネルギー
変更ありません。
【粒子】化学変化とイオン
「水溶液とイオン」「酸・アルカリとイオン」が「水溶液とイオン」「化学変化と電池」に、中項目の構成が変わりました。
「金属のイオンへのなりやすさ」「ダニエル電池」が内容の取扱いで追加されました。
これまで発展的な内容として教えていたイオン化傾向を扱うことで、どちらが陽極・陰極になるのか、少しは納得感が増すかもしれません。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「探究の過程を振り返る」ことは、金属を電解質水溶液に入れる実験を行う際に、考察と課題の対応、結論の根拠の有無、新たな問題の発見などが例示されています。
ここでの振り返りはショートスパンですので取り組みやすいです。今までだと課題とまとめの対応と言われていたように思いますが、もしかして「課題と考察」の対応というのがポイントでしょうか。
まとめに合わせて課題を設定していたこれまでとはちがって、考察させたいことに合わせて、課題設定をしていくことが必要になりそうです。
水溶液とイオン
「原子のなり立ちとイオン」「酸・アルカリ」「中和と塩」の3項目に変わりました。「酸・アルカリ」「中和」が中項目が小項目に変わりました。
教科書も書き換えられると思いますので、内容の確認とスライドなどの修正が必要です。
化学変化と電池
電池が中項目に上がってきました。これから燃料電池などの新技術が期待されますから、それを見越してのことかと思います。
内容としては上でも書いたように、「金属のイオンへのなりやすさ」「ダニエル電池」が内容の取扱いで追加されました。
ダニエル電池はボルタ電池の改良版として作られた電池です。新しく教材研究が必要ですし、もしかしたら新しい実験セットが必要になるかもしれません。あいだに入れる素焼き板をどうするか考えておかないといけません。
これまで以上に、電池の進歩について話す機会がありそうですね。
【生命】生命の連続性
「生物の種類の多様性と進化」が2年生から上がってきました。
「遺伝子に変化が起きて形質が変化することがあること」が進化との関連付けに変更になりました。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「探究の過程を振り返る」ことについて、コインなどを用いた交配のモデル実験を行う際に、試行回数と得られる結果の関係やモデル実験の操作と結果の意味を考えて探究過程を振り返ることが示されています。

先生は、交配のモデル実験でなにを使ってますか?
コイン?カード?割りばし?

アイスの棒・・・(100均に売ってた)
生物の成長と殖え方
体細胞分裂について「その過程を確かめる」が「その順序性を見いだして理解する」というように強調されています。分裂の順序を並べ替える問題、その過程を説明する問題が増えそうです。
遺伝子の規則性と遺伝子
「遺伝子に変化が起きて形質が変化すること」が次へ移動しました。
生物の種類の多様性と進化
2年生の進化が、3年生の遺伝の後ろに移動しました。これまでの「遺伝子に変化が起きて形質が変化すること」は「遺伝の規則性と遺伝子」との関連付けから、「生物の種類の多様性と進化」に関連付けられました。
つまり進化論に関する説明が、ダーウィンの「適者生存・自然淘汰」から遺伝子進化論へ軸足がシフトしたということでしょうか。進化についてはまだまだ分かっていないことが多いので、あらためて勉強してみると最新研究がいろいろ出てきていて面白いです。
【地球】地球と宇宙
「惑星の見え方」を「金星の見え方」とすることで、太陽系の構造と分けられました。
【思考力・判断力・判断力のポイント】
「探求の過程を振り返る」ことは、金星の見え方を調べる際に、太陽と金星の位置関係に着目したモデル実験に対して、実験方法や考察の妥当性を振り返らせることが例示されています。
つまり、実験方法がよくないと思えば、もう一回やり直させることも大事だということでしょう。月の見え方とはちがうので、そこに気がつくこと。満ち欠けだけでなく、大きさも変わることに気がつけるかどうかですね。
ピンポン玉を使うか、テニスボールを使うか、もっと大きいボールを使うか、悩ましいところですね。

でも、直径55cmの赤いバランスボールを太陽に見立てるというのは、いいアイデアだと思いました。
天体の動きと地球の自転・公転
特になさそうです。
太陽系と恒星
これまで惑星の見え方と太陽系の構造が関連付けられていましたが、今回切り離されました。太陽系の構造と惑星の見え方が切り離されたことで、金星の見え方と月の見え方が統合されました。
【エネルギー】科学技術と人間
「放射線の性質と利用」は2年生に下りました。
「石油」「石炭」「原子力」、さらに「水」「風」の再生可能エネルギーに加えてエネルギー資源として「太陽光」が追加されました。いまのご時世であれば、そこまで新しい感じもしません。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「科学的に考察して判断すること」については、放射線の利用と影響などが例示されています。
「自然環境の保全と科学技術の利用」については、これまでの学習を総合して多面的に考察し、科学的な根拠に基づいて意思決定させることが重要です。生活の豊かさと環境破壊など、両立しにくい事例を提示することも考えられます。
放射線の利用と影響は、科学的に考察して判断する教材として適していますね。
例えば、海外旅行に行けば行くほど宇宙からの放射線を浴びることになります(影響のない範囲に収まるように、パイロットやCAさんたちはフライト回数が決まっています)。
それと、レントゲン撮影もそうですね。虫歯になって歯医者さんに行ったとき、検査のために放射線を浴びるか、我慢するか、患者の側に選択権があってもいいように思います。

放射線といえば、原子力発電所で使われています。福島第一原子力発電所の事故でわかるように、その被害影響の大きさは計り知れません。でも、電気がなくてはみんなの生活も困ります。どうしましょうか?

先生の価値観や考えを生徒に押し付けないように、言葉を選ぶようにしましょうね。生徒に意思決定させることが大事です。

でも、放射性廃棄物の最終処分方法・場所が決まらないことは、これからの子供たちにも関わる大問題ですょ・・・ブツブツ。
エネルギーと物質
「放射線」の取り扱い
大部分が移動した放射線の中でも、原子力発電に伴って放射線が発生すること、自然界にも放射線が存在することは、3年生で扱うことになります。
放射線の影響を科学的に考えさせるのは、やはり3年生だろうと思います。いいとか悪いとか、先生の考えを押し付けるのではなく、あくまでも一人ひとりに放射線の利用、放射性廃棄物の最終処分、日本・世界の原子力政策を考えさせたいものです。
「熱の伝わり方」が「扱う」から「触れる」になりました。じっくりと扱うではなく、軽く触れる程度、です。新しい教科書・ワークであつかう程度を確認する必要がありますね。
【粒子】科学技術と人間
1年生のプラスチックが最後に来ています。15歳になるまでプラスチックとは何なのか分かっていないのもどうかと思いますが、仕方ありません。
「石油」「石炭」「原子力」、さらに「水」「風」の再生可能エネルギーに加えてエネルギー資源として「太陽光」が追加されました。いまのご時世であれば、そこまで新しい感じもしません。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「科学的に考察して判断すること」について、科学技術の有用性や活用の在り方などの題材が例示されています。
プラスチックの性質
「様々な物質とその利用」では、代表的な天然の物質や人工的につくられた物質について、観察・実験を通して理解を深めます。プラスチックもそのなかの一つとして扱うことになります。
自然環境の保全と科学技術の利用
この単元では第1分野と第2分野を総合的に扱い、「科学的に考察して判断する」こと重点的に育成します。主体的・対話的で深い学びを工夫しましょう。
【生命】自然と人間
「生産者と消費者」と「分解者」に扱いが分けられました。食物連鎖のピラミッドに分解者は入ってきませんから、そのほうがいいですよね。
「地球温暖化」が「気候変動」に変更になりました。地球温暖化という惑星規模の話が、気候という少し身近な言葉に変わり、より切実に感じるようになりました。
生物と環境
「生産者と消費者の関係を扱う」と「分解者の働きについても扱う」と分けて記述されるようになりました。すでに教科書は別扱いになっていますので、問題はないと思います。
むしろ「分解者」の定義の変更への違和感を、そろそろ払拭しなければいけません。これからもミミズやダンゴムシは分解者です。・・・お、おぅ。
「地球温暖化」が「気候変動」に変わっています。世相を反映しています。
自然環境の保全と科学技術の利用
特になさそうです。
【地球】自然と人間
「自然の恵みと災害」の火山と地震の災害については、1年生の「大地の成り立ちと変化」へ下りました。同じく、気象災害については2年生の「気象とその変化」に下りました。
生物と環境
「自然の恵みと災害」の第1学年と第2学年に移動しましたので、残っているのは「地域の自然災害についての調べ学習」です。
これまでの学習内容をもとに総合的に調べ、自然と人間の関わり方について認識させることが大切です。いわば「Think Globally, Act Locally」といったところでしょう。