令和2年度は、令和3年度(平成33年度)からの新学習指導要領の全面実施に向けての、移行期間となります。
各学校で生徒たちの学習にモレが無いように、十分に内容を確認しておく必要があります。
東京書籍のサイトに「(中学校理科)新学習指導要領 移行期の指導計画と指導のポイント」が掲載されています。この資料は4つの領域ごとにまとめられているので、学年ごとにまとめなおしてみました。
ここでは、第1学年の移行内容について書いていきます。
【エネルギー】身近な物理現象
ここも改訂のたびにいじられる「圧力」と「2力のつり合い」が大きなポイントになると思います。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「問題を見いだし見通し」をもって調べるのは、鏡の反射による光の的当て、虹、音の高さと振動数関係が例示されています。
「規則性や関係性を見いだして表現すること」は光の反射、屈折の規則性や凸レンズによる物体の像の規則性、力の働きの規則性が例示されています。
このへんは、以前から取り組んでいるところです。鏡やギターなどでしばらく遊ばせながら、疑問を見つけ出させる時間を取れるといいですね。
光と音
「プリズムによる白色光の分光」が新規に追加されます。「白色光はプリズムなどによっていろいろな色の光に分かれることにも触れること」とされています。
虹が7色になる話などが、発展的な内容ではなく、ふつうに扱われるようになります。
分光について学んでおくと、放射線についても少し理解しやすくなるように思います。

ちなみに、虹が7色と決めたのはニュートンです。しかもその理由は、音階が7つ(ドレミファソラシ)だからなんだそうです。理科と音楽の意外なつながりですね。それだけニュートンの時代に音楽が学問として重要視されていたということで、時代背景も考えさせられます。
力の働き
「2力のつり合い」が「力のはたらき」に入ります。これで2年生、3年生に移行した「圧力」や「浮力」の説明がしやすくなるはずです。
これまで「作用・反作用の法則」と並んで扱われていたので、その違いが理解しやすかったのですが、今度はそうはいきません。3年時に復習する必要があるでしょう。
「つり合い」はどこにいっても必要な「概念」なので、各学年で繰り返し指導できると前向きに捉えます。
「大気圧」は2年生の天気で扱っていたので移行に無理はありませんが、「圧力」もいっしょです。
1年生で圧力を学ぶときの、「力÷面積」という割り算の練習をするワンクッションがありません。
圧力も大気圧もどちらも2年生で扱うことになります。2年生の気象は難しくなりそうですね。
水圧と浮力はワンセットで、3年生の「運動とエネルギー」のなかの「力のつり合いと合成・分解」へ移行します。
今まで2力のつり合いや力の合成を用いずに「浮力」を説明していましたからね。だいぶ分かりやすくなると思います。
「水圧と浮力との定性的な関係に触れる」だけなので、大したことはありません。定量だったら大変でした。
【粒子】身の回りの物質
プラスチックが3年生に移行します。溶解の実験、融点・沸点の実験がカットされます。
ストップウオッチ片手にみんなで温度変化を調べる実験は、結構、好きだったんだけどな。うーむ、負担軽減といっていいのでしょうか。実験が減って、関連づけて考える・覚える内容が増えたように思います。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「問題を見いだし見通し」をもって調べることは、身の回りの物質での区別、見分けにくい白色粉末の区別が例示されています。
白色粉末に何をもってくるかが、先生方の教材研究のしどころです。とはいえ、あまり特殊なものを扱わず、台所にあるもので十分だと思います。むしろ、それが身の回りの物質だと言えます。
発展的に、気体の同定を行うことも考えられます。未知の気体が何か実験を通して当てさせるという実験です。

わたしはよく「窒素」を使います。何も反応がないので、生徒たちは意外なほど困り果てます。

いじわるですね。

…あ、あと、実験台に「ミッション」という指令書を置いておいて、ストーリー仕立てに実験に取り組ませることもやってます。ちょっと強引ですが、実験をする動機付けですね。

話しそらした。でも「ミッション」なんて面白いかも。
物質のすがた
「プラスチックの性質」は3年生の「科学技術と人間」に新設される「様々な物質とその利用」に移行し、他の素材と併せて扱うことになります。
プラスチックが新しい素材とは感じませんが、導電性プラスチックや生分解性プラスチックなど、新しいプラスチックが出ていますから、その基礎として学ぶことになると思います。
水溶液
溶解の実験について、「観察を行い」という文言が削減されました。小5で「水溶液の均一性」を学ぶので、そのつながりで観察をせずとも、溶解と粒子のモデルを関連付けることができるというわけです。
小中のつながりを大事にしなければいけません。そして5年生の内容、つまり2年前の内容を生徒全員が覚えていることを確認しなければいけません。
状態変化
状態変化するときの温度測定実験から「測定を行い」が消えたことで、実験そのものをしません。融点・沸点は小学校の既習事項をもとに勉強します。だったら小学校で教えてしまってほしいですね。
状態変化については粒子のモデルと関連付けます。
【生命】いろいろな生物とその共通点
これまでは1年生は「植物」、2年生は「動物」というイメージでした。
これからは、1年生は「生物の特徴と分類の仕方」が新設されます。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「問題を見いだし見通しをもって」整理する力を養うことが重要とされています。ここでは、いろいろな生物の共通点や相違点を見いだし、それをもとに分類することを通して養うということです。
1年生ではまだ、規則性や関係性を見いだして表現することは示されていません。
いろいろな生物を比較して気付いた共通点や相違点をもとに、分類の仕方の基礎を学ぶことになります。ベン図とか使うことがますます増えそうです。
生物の観察と分類の仕方
「植物」が「植物の体の共通点と相違点」に変わることで、「葉・茎・根のつくりと働き」は2年生に移ります。そのため「花のつくりとはたらき」が終わったらすぐに植物の分類に入ります。
維管束は内部構造になるので2年生です。また「光合成」「呼吸」「蒸散」ははたらきなので2年生です。
しかも、内部構造の観察で必要になる顕微鏡の使い方についても、2年生へ移行します。
生物の体の共通点と相違点
これに連動して、2年生の「動物のなかま」が1年生の「動物の体の共通点と相違点」になります。
ここも外部形態にこだわって分類のみを扱い、その内部構造は2年生に残ります。
生物(植物・動物)の共通点と相違点をもとに、分類の仕方の基礎を学ぶ単元となりました。

生物については、動物について書かれた補追版の教科書が1年生に配付されていますが、来年度、きちんとした教科書でよくよく確かめるようにしましょう。
【地球】大地の変化と成り立ち
「身近な地形や地層、岩石の観察」が新設されました。「自然の恵みと火山災害・地震災害」が3年生から下りてきます。内容が特段新しいわけではないですが、章が増えるのは負担に思いますね。
【思考力・判断力・表現力等のポイント】
「問題を見いだし見通し」をもって調べることは、地域の露頭観察などで構成物の違いや地層の広がりについて問題を見いだすこと、いくつかの火山の比較から問題を見いだすこと、が例示されています。
「規則性」については、地層の重なり方や広がり、地震の揺れの大きさや伝わり方が挙げられています。
「関係性」については、地下のマグマの性質と火山の形の関係が挙げられています。
露頭観察ができればいいですが、難しい学校も多いですね。できれば先生が写真を撮ってくるとか、地域の博物館や科学館に行ってみる・学芸員の方に話を聞い見るというのもありですね。
身近な地形や地層、岩石の観察
項目としては新しいですが、要するに火成岩や堆積岩などの岩石の観察と地層の観察が統合して、基礎技能として教えるようになったということです。
野外観察は必修ではなくなりました。都市部ではほぼ無理な話なので、地域の実情に合わせて実施できますね。都市部では学習旅行・遠足の際に、近くにあれば見せられるといったところでしょうか。
地層の重なりと過去の様子
「新生代の第三紀及び第四紀」が「新生代」になっています。第一紀が古生代、第二紀が中生代なのですから、わざわざ第三紀及び第四紀などと呼ばなくて済むようになります。
中新世・鮮新世など、時代区分は人間の都合でどんどん分けているだけです。こういう専門的な分類について、生徒が覚える負担が減るのはいいことです。
火山と地震
「地球規模でのプレートの動きにも触れること」が3年生の「自然と人間」から下りてきています。
「津波発生のしくみについても触れること」が追加されています。地震大国の日本において、災害について積極的に学ぶようになるのはいいことです。防災・減災教育はこんご重要なことです。
自然の恵みと火山災害・地震災害
3年生から下りてきました。火山の噴火や地震などの地質活動が、人間に恵みと災害をもたらすという自然の二面性について、1年生で学ぶことになります。火山と地震を学んでいますので、それとの関連付けが図られます。
災害に対しては、情報収集や的確な判断、適切な行動が求められます。南海トラフ巨大地震、首都直下型地震が迫っています。中学生に求められる災害対応力を育成したいものです。