NLP(神経言語プログラミング)の基本的な考え方の1つに「優位感覚」というものがあります。
「視覚」「聴覚」「体感覚」の3つの「代表システム」と、それに「言語感覚」を加えた4つの「学習スタイル」があります。
「学習スタイル」によって、適切な学習方法が異なることを記事にしました。
今回は、教える先生の側はどうしたらいいのかについてまとめていきます。
授業をする教師として、その学級にいる生徒の特性に応じた授業を考えることは必須です。
もちろん、4つの学習スタイルをもった生徒がそれぞれいるわけですが、クラスによって偏りはあります。そこに配慮が必要になります。
各学習方法にどのような優位特性があるか
生徒一人一人に優位感覚があり、適切な学習方法があるというのであれば、その逆も考えられます。
学習方法ごとに、優位な特性というものがあるということです。
教師は生徒を選べません。選べるのは指導方法です。では、先生が使用しようとしている指導方法はどのような特性をもっているのでしょうか。
それが分かれば、クラスの特性に応じた学習方法を、先生は選択しやすくなるはずです。
これまでも「読む」「書く」という基本的な学習方法をはじめ、さまざまな学習方法が編み出されてきました。黒板だけでなく、最近はタブレットなどの学習教材もさまざまなものが開発されています。
それらはどのような特性をもっているのか、この記事で解説していきます。
基本的な学習方法の特性
まずは、どんな授業でも行われる「聴く」「読む」「書く」についてです。
話を聴く
聴覚。そのままですね。話を聞くことは、生まれたばかりの赤ちゃんも始める、最初の学習方法です。
読む
聴覚。意外かもしれませんが、「読む」というのは聴覚を使っています。視覚ではありません。字を見ると、自然と頭の中で音読していませんか。つまり、文字を聴覚で捉えているのです。
フォトリーディングや速読と呼ばれる方法は、この聴覚優位の読み方を、視覚優位に変化させているわけです。
書く
視覚。書くために手を動かしていますから体感覚も使っていますが、書くことは視覚です。特に、学校では黒板を「見て」書いています。
では、体感覚をつかう学習方法とは何でしょうか?
なぞる
鉛筆を持たずに、指で大きくなぞり書きをする。指を顔の前に持ち上げて「空書き」をする。教科書を読むとき、読んでいるところを指でなぞる。
正確にできたかどうか確認するのは難しいですが、体感覚の生徒にとっては書くよりはなぞるほうが抵抗が少ないです。
似たところで、先生が言った部分を指で「指し示す」のも、体感覚の生徒にとっては有効です。
これまでの学校にある教具の特性
どの学校にもある教具について考えてみましょう。
黒板
視覚、体感覚、言語感覚。黒板はかなり万能です。見せることも、読ませることも、考えさせることもできます。
聴覚が入っていませんが、会話だけのやり取りする空中戦が得意な聴覚優位の生徒の発言を板書することで、他の3つの優位感覚の生徒を授業に参加させることができるようになります。
ピアノ
聴覚と体感覚。音は耳から入ってきます。またリズムは体感覚に伝わってきます。ピアノを弾く生徒はもちろんですが、周りの生徒にとっても同様の効果が期待できます。
跳び箱
体感覚。跳び箱に特定することもないかもしれませんが、体育の教具の多くは体感覚です。
そのため、最近の体育ではBGMをつける(聴覚)、目で見て分かるシールをはる(視覚)、自分たちで話し合わせる(言語感覚)などの工夫もしていますね。
ビデオ
視覚と聴覚。テレビとビデオデッキ、最近だとDVDやBDプレーヤーは代表的な視聴覚機材です。名前のとおり、視覚と聴覚です。
ずっと見せていると、体感覚と言語感覚の生徒が飽きてしまうのも分かります。
これからの学習方法、教材・教具
ここまでの説明で分かるように、言語感覚の学習方法がありません。
言語感覚優位の方は,読めばいいのか書けばいいのか,どんな方法がいいのか分かりません。いろいろな勉強方法を試して,自分にあったものを見つけないといけません。最近の学習方法にヒントがあります。
マインドマップ(イメージツリー)
視覚と言語感覚。マインドマップはどのようにまとめるか、自分で自分と対話しながら頭の中が整理できます。
マインドマップという言葉は「商標」であり、そのやり方を教えることは無断使用に当たります。そのため、学校の先生方は「マインドマップのようなもの」とか「イメージツリー」などの言い方でお茶を濁しています。ビジネスですから仕方ないですね。
ここではマインドマップを具体例として挙げていますが、最近学校教育に取り入れられ始めている「思考ツール」「シンキングツール」は同様なことがいるでしょう。
シンキングツールについては、以前に黒上先生の講義を受けたことがあります。参考までにどうぞ。
http://ks-lab.net/haruo/thinking_tool/short.pdf議論
聴覚と言語感覚。会話と議論だとレベルは違うかもしれませんが、聴覚の生徒は参加しやすいです。
言語感覚の生徒は自分の内的対話が適切かどうか判断するために、意見を表明し、議論に入ってきます。そのまま参加させていくコツは、黒板にその発言を書くことです。これによって、言語感覚の生徒は他の言語感覚の生徒との交流によってさらに内的対話が進むことを理解し、議論を楽しむようになります。
タブレット
体感覚と言語感覚。ここはまだ研究段階かもしれませんが、私がアンケート調査したところだと、タブレットは体感覚と言語感覚の生徒に有効でした。
タブレットは指でなぞって操作をします。また、持って歩くこともできます。これらは体感覚の特性です。
タブレットは操作に一定の論理的思考が伴います。アプリによってもできることが変わります。どんな風に使うのか、使えるのか考えることは言語感覚の特性です。
タブレットの良いところは、それで映像や音声を出力する視聴覚機器でもあることです。すべての優位感覚に適合させることができる教具だと言えます。
万能な指導方法、教材・教具はない
ここまで見てきたように、すべての優位感覚特性をもった指導方法、教材・教具はありません。
これさえあれば大丈夫、ということはないわけです。昔からずっとある黒板も使い方次第です。最新のタブレットも使い方次第です。
タブレットを使った授業のあと「ICTを使っても何も変わらなかった。」と、聴覚優位の生徒から言われたときに、それを痛感しました。使えばいいのではないのです。
あくまでも先生が生徒を見取って、その生徒・集団にあった学習方法を見つけること、提供・提案することが、教師の努力=教材研究ということです。
タブレットが点数を伸ばすわけではないが…
タブレットの有効性を研究したときのことです。
ベテランの先生が黒板だけで授業したあとのテストの点数と、若手がタブレットをつかった授業をしたあとのテストの点数には、有意な差がありませんでした。
ベテランの先生にとっては、使い方の良く分からないタブレットは特に必要もなかったのです。逆を返せば、若手がベテランに追いつくための一つの方法として、タブレットが有効であるとも言えます。
これまでは黒板を使った一斉授業や視聴覚教材に代表されるような、視覚優位、聴覚優位の生徒に合った学習指導が行われてきました。そのなかでは、体感覚優位、言語感覚優位の生徒は「落ちこぼれ」「わからず屋」「屁理屈」「理解が遅い」と評価されてきました。
このままテストをすれば、視覚、聴覚優位の生徒の点数は伸び、体感覚、言語感覚優位の生徒の点数は下がります。
ここでタブレットを導入したとしましょう。タブレットは「体感覚」と「言語感覚」の生徒に効果的な教具でした。「視覚」と「聴覚」の生徒には効果が低いので、ただ使っても全員の点数が伸びることはないでしょう。しかし、体感覚と言語感覚優位の生徒の点数は伸びるでしょう。
従来型の授業でもタブレットを用いた授業でも、どちらも平均点は同じです。しかし、生徒が二極化した平均点と、生徒全員が底上げされた平均点では、意味が違ってくるでしょう。
まとめ:優位感覚を活用して生徒の学習を保証する
生徒にしてみれば、黒板だろうがタブレットだろうが、勉強が分かればいいのです。彼らが求めているのは学習方法ではなく「分かる」ことです。そこを外してはいけません。
学習指導案が一般化されず、タイトルに「〇年〇組 学習指導案」とクラス名が付くのは、そのクラスの生徒の特性に応じた指導案であるためです。
聴覚優位の生徒が多いクラスでは、それに応じた学習方法をメインとした授業を行います。しかし、それと同時にそれに応じていないスタイルの生徒への個別の支援も必要になってきます。
視覚優位の生徒は指示が聞き取れず、何をするのか分からずに困っています。体感覚優位の生徒はムズムズしているでしょう。言語感覚優位の生徒は一見ボーっとしているようにも見えます。それぞれに適切な声掛けが必要です。
視覚優位の生徒が多いクラスでは、視覚優位に有効な授業を組み立てつつ、今度は聴覚優位の生徒に対する支援策が必要になります。
このような配慮、支援をすることが、生徒の学習を保証するということです。
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