生徒は毎日、「自主学習ノート」と「生活の記録ノート」を提出することになっています。
「生活の記録ノート」というのは、次の日の授業の準備物や、その日の日記をちょこっと書くスペースがあるような冊子です。
呼び方は学校によっていろいろだと思います。「生活ノート」や「生活の記録」や学校独自の名称だったり、学年ごとに変わっていたり、単に商品名だったりします。
ここでは「生活ノート」と呼ぶことにします。今回はその生活ノートの話です。
生活ノートにマンガを書いてくる生徒
適当に日記を書いて提出してくる生徒もいますが、今まで受け持った生徒に何人か、いろいろなイラストやマンガを描いてくる生徒がいました。
思い返してみると、女子生徒ばかりでした。
そのとき流行っているキャラクターのイラストや、女の子のイラストを描いているパターンもありました。
「絵を描いていいんですか?」という意見もありましたが、私自身はそれを「許可」していました。
生徒の中には、言葉では表現できなくてマンガにしたほうが心を表現できる生徒もいると思ったからです。
生徒の日記にはコメントをつけるようにしていますが、マンガから生徒の心情を読み取ってコメントしていました。
マンガに隠されたメッセージを読み取る
あまり具体的なことは書けませんが、かつてキャラクターものを描いてくる生徒がいました。
私もそのキャラの可愛らしさから、コメント代わりに同じようなマンガを描いて返していたこともありました。
そんな絵日記のようなノートの交換が続いてくると、1コマ漫画でキャラクターがしゃべりだしたり、キャラクターに家族が増えていったりしました。
しかしあるとき、そのキャラが大ケガをしていました。
お母さんキャラが娘キャラに攻撃されてケガをしています。
こんな攻撃的なマンガを描くなんてどうしたのかな?と考え込みました。
そして思い出しました。
その子の家では、赤ちゃんが生まれたばかりでした。
「もしかしたら、お母さんがその赤ちゃんにかかりっきりになってしまって、相手してもらえなくて寂しいんだな。」と勝手に考えました。
外れていた場合のリスクも考えましたが、自分の直感を信じて次のようにコメントしました。
『お母さん、赤ちゃんが生まれて毎日大変だろうね。これからはお姉ちゃんになって、お母さんと一緒にがんばろうね。』
これはさすがにマンガでは書き表せませんでした。一か八かストレートに言い当ててみたのです。
マンガだから表現できる気持ちもある
赤ちゃんがかわいい。赤ちゃんが生まれて嬉しい。お姉ちゃんになれて嬉しい。その一方で、親は赤ちゃんに構ってばかり。家族のなかで主役の座を奪われ、寂しい気持ち、悔しい気持ち、妬ましい気持ちが芽生える。そんな風に思ってしまう、考えてしまう自分のことも嫌になる。
この複雑な感情を中学生が言語化できたりはしないでしょう。だからマンガを使って気持ちを表現したのです。本人にとっては無意識のことだったろうと思います。
そしてそのとき私が運良く、生徒の言葉にならない気持ちをマンガから読み取って、そのときのその子にとって心に刺さる、適切なコメントができたと思います。
数日経つと、その子は精神的にも生活面でも不思議なほどに安定しました。
そして、そのキャラものの日記もまもなくして消えていきました。ブームが去ったからなのか、その子の気持ちが離れたからなのか分かりません。
それはそれで構わないと思います。きっとそのマンガも役目を終えたのでしょう。
生活ノートで間接的に気持ちを読み取る
今でも生活ノートにマンガを描いてくる生徒がいたら、私も頑張ってマンガで返すようにしています。そしてそのマンガの変化を注意深く見守るようにします。
申し訳ないけれど現場は忙しい。毎日、生徒一人ひとりに声をかけたり、直接的に心情を読み取るような時間は作れません。空き時間に見る生活ノートから間接的に読み取ることのほうが多いです。
だからこそ、生徒からのこうした言葉にならないものを大事にしようと思っています。(まだまだできていないことは沢山ありますが。)