中学校学習指導要領解説【理科編】第1分野(3)電流とその利用の解説

 学習指導要領

「中学校学習指導要領解説【理科編】(平成29年7月)」p40~の「(3)電流とその利用」についての解説です。

本文は学習指導要領解説理科編のコピー&ペーストです。見出しや付箋、マーカーペンについては私が追記した部分ですので、ご注意ください。

先生方の研究授業やカリキュラムマネジメント、移行措置の確認などに生かしていただければ幸いです。

「第1分野(3)電流とその利用」の解説

単元全体の枠組み

(3)電流とその利用 

 電流とその利用についての観察,実験などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 電流,磁界に関する事物・現象を日常生活や社会と関連付けながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。

イ 電流,磁界に関する現象について,見通しをもって解決する方法を立案して観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,電流と電圧,電流の働き,静電気,電流と磁界の規則性や関係性を見いだして表現すること。

既習事項

 小学校では,第3学年で「磁石の性質」,「電気の通り道」,第4学年で「電流の働き」,第5学年で「電流がつくる磁力」,第6学年で「電気の利用」など,電流の働きや磁石の性質について初歩的な学習をしている。

大項目のねらい

 ここでは,理科の見方・考え方を働かせ,電流とその利用についての観察,実験などを行い,電流,電流と磁界について日常生活や社会と関連付けながら理解させるとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けさせ,思考力,判断力,表現力等を育成することが主なねらいである。

「思考・判断・表現」育成の考え方

 思考力,判断力,表現力等を育成するに当たっては,電流,磁界に関する現象について,見通しをもって課題を解決する方法を立案して観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,電流と電圧,電流の働き,静電気,電流と磁界についての規則性や関係性を見いだして表現させることが大切である。その際,レポートの作成や発表を適宜行わせ,科学的な根拠に基づいて表現する力などを育成することも大切である。

特記事項・配慮事項

(ア)電流
 ㋐ 回路と電流・電圧
 回路をつくり,回路の電流や電圧を測定する実験を行い,回路の各点を流れる電流や各部に加わる電圧についての規則性を見いだして理解すること。

 ㋑ 電流・電圧と抵抗
 金属線に加わる電圧と電流を測定する実験を行い,電圧と電流の関係を見いだして理解するとともに,金属線には電気抵抗があることを理解すること。

 ㋒ 電気とそのエネルギー
 電流によって熱や光などを発生させる実験を行い,熱や光などが取り出せること及び電力の違いによって発生する熱や光などの量に違いがあることを見いだして理解すること。

 ㋓ 静電気と電流
 異なる物質同士をこすり合わせると静電気が起こり,帯電した物体間では空間を隔てて力が働くこと及び静電気と電流には関係があることを見いだして理解すること。

(内容の取扱い)

ア アの(ア)の㋐の「回路」については,直列及び並列の回路を取り上げ,
それぞれについて二つの抵抗のつなぎ方を中心に扱うこと。
イ アの(ア)の㋑の「電気抵抗」については,物質の種類によって抵抗の値が異なることを扱うこと。また,二つの抵抗をつなぐ場合の合成抵抗にも触れること。
ウ アの(ア)の㋒については,電力量も扱うこと。その際,熱量にも触れること。
エ アの(ア)の㋓については,電流が電子の流れに関係していることを扱うこと。また,真空放電と関連付けながら放射線の性質と利用にも触れること。

 ここでは,回路の作成や電流計,電圧計,電源装置などの操作技能を身に付けさせ,電流に関する実験を行い,その結果を分析して解釈し,回路の電流や電圧の規則性を見いだし理解させることが主なねらいである。また,電力の違いによって発生する熱や光などの量に違いがあること,静電気と電流は関係があることなどを観察,実験を通して理解させることが主なねらいである。

㋐ 回路と電流・電圧について
 小学校では,第3学年で,電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があること,第4学年で,乾電池の数やつなぎ方を変えると豆電球の明るさやモーターの回り方が変わることについて学習している。
 ここでは,簡単な直列回路や並列回路における電流や電圧に関する規則性を,実験を通して見いださせ,回路の基本的な性質を理解させることがねらいである。
 例えば,豆電球などの抵抗及び電源装置を入れた簡単な回路をつくらせ,その回路に流れる電流や抵抗に加わる電圧の測定などを行わせ,回路の作成の仕方,電流計や電圧計,電源装置などの基本的な操作技能を身に付けさせる。その上で,豆電球に流入する電流と流出する電流の大きさの関係を予想させ,それを調べる実験を計画して実行させ,その結果から規則性を見いだして表現させる活動などが考えられる。その際,測定器具はデジタル表示のものを使用することも考えられる。
 さらに,二つの抵抗をつなぐ直列回路や並列回路などの簡単な回路の各点を流れる電流や各部に加わる電圧などを調べる実験を行い,その結果を分析して解釈し,電流や電圧に関する規則性を見いだして理解させる。
 電流については,分岐点のない回路では回路のどの部分でも電流の大きさが等しいこと,分岐点のある回路では流入する電流の和と流出する電流の和が等しいこと,また,電圧については,抵抗を直列につないだ回路では各抵抗の両端の電圧の和が全抵抗の両端の電圧に等しいこと,抵抗を並列につないだ回路ではそれぞれの抵抗の両端の電圧は等しいことなど,それぞれの規則性を見いだして理解させる。

㋑ 電流・電圧と抵抗について
 小学校では,第3学年で,電気を通す物と通さない物があることについて学習している。
 ここでは,金属線などに加える電圧と流れる電流を調べ,それらの関係を見いだし,電気抵抗について理解させることがねらいである。例えば,電熱線などの金属線を入れた回路で,金属線に加える電圧と流れる電流の大きさを調べる実験を行い,測定値をグラフ化し,結果を分析して解釈し,電圧と電流が比例関係にあることを見いだすとともに,いろいろな電熱線の測定結果を基に,金属線には電気抵抗があることを理解させる。その際,第1学年での「ばねに加える力の大きさとばねの伸びとの関係」の学習などと関連を図りながら,誤差の扱いやグラフ化など,測定値の処理の仕方を習得させることが大切である。また,物質の種類によって抵抗の値が異なることを扱う。
 さらに,二つの抵抗を直列や並列につないだ場合について,その合成抵抗にも触れる。その際,合成抵抗については,直列つなぎ,並列つなぎにおける回路全体の電流と電圧から考えさせるようにする。

㋒ 電気とそのエネルギーについて
 小学校では,第4学年で,乾電池の数やつなぎ方を変えると,豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること,第6学年で,電気は,光,音,熱,運動などに変換できることについて学習している。
 ここでは,電流から熱や光などを取り出せること及び電力の違いによって発生する熱や光などの量に違いがあることを見いださせ,日常生活や社会と関連付けて理解させることがねらいである。
 例えば,家庭で使用する電気ポット,発光ダイオード,豆電球,電子ブザー,あるいはモーターを用いた模型自動車などに電流を流す実験を行い,電流から熱や光,音を発生させたり他の物体の運動状態を変化させたりすることができることを見いだして理解させる。さらに,電力の違いによって発生する熱や光,音などの量や強さ,他の物体に及ぼす影響の程度に違いがあることを見いだして理解させる。その際,電力については,電流と電圧の積であり,単位はワット(記号W)で表され,1Vの電圧を加え1Aの電流を流したときの電力が1Wであることを理解させる。その上で,例えば,電熱線に電流を流し,同じ量の水の温度を上昇させる実験を行う。このとき,電熱線に加える電圧や電流を流す時間を変えたり,消費電力が異なる電熱線を用いたりして,発生する熱量を調べる実験を計画して行わせる。そして,その結果を分析して解釈し,水の温度上昇は電力と時間に関係することを見いだし,電力と時間の積である電力量を理解させる活動などが考えられる。電力量の単位はジュール(記号J)で表されることを扱い,発生する熱量も同じジュールで表されることや日常使われている電力量,熱量の単位にも触れる。さらに,電流によって熱や光,音などが発生したり,モーターなどで物体の運動状態を変化させたりすることができることから,電気がエネルギーをもっていることを理解させ,熱や光,音などがエネルギーの一形態であることにも触れる。

㋓ 静電気と電流について
 ここでは,静電気の性質及び静電気と電流は関係があることを見いださせ,電流が電子の流れに関係していることを理解させることがねらいである。
 例えば,異なる物質同士をこすり合わせると静電気が起こること,帯電した物体間には空間を隔てて力が働き,その力には引力と斥力の2種類があることを見いだして理解させる。また,静電気によってネオン管などを短時間なら発光させられることなど,電流によって起こる現象と同じ現象が起こる実験を行い,静電気が電流と関係があることを見いだして理解させる。その際,例えば,静電気の性質により引き起こされる身近な現象や,電子コピー機など静電気を利用したものを取り上げて,静電気の性質について理解を深めることができるようにする。また,雷も静電気の放電現象の一種であることを取り上げ,高電圧発生装置(誘導コイルなど)の放電やクルックス管などの真空放電の観察から電子の存在を理解させ,電子の流れが電流に関係していることを理解させる。その際,真空放電と関連させてX線にも触れるとともに,X線と同じように透過性などの性質をもつ放射線が存在し,医療や製造業などで利用されていることにも触れる。

(イ)電流と磁界
 ㋐ 電流がつくる磁界
 磁石や電流による磁界の観察を行い,磁界を磁力線で表すことを理解するとともに,コイルの回りに磁界ができることを知ること。

 ㋑ 磁界中の電流が受ける力
 磁石とコイルを用いた実験を行い,磁界中のコイルに電流を流すと力が働くことを見いだして理解すること。

 ㋒ 電磁誘導と発電
 磁石とコイルを用いた実験を行い,コイルや磁石を動かすことにより電流が得られることを見いだして理解するとともに,直流と交流の違いを理解すること。

(内容の取り扱い)

オ アの(イ)の㋑については,電流の向きや磁界の向きを変えたときに力の向きが変わることを扱うこと。
カ アの(イ)の㋒については,コイルや磁石を動かす向きを変えたときに電流の向きが変わることを扱うこと。

 ここでは,磁力の働く空間として磁界を取り上げ,磁界と磁力線との関係,電流の磁気作用に関する基本的な概念を観察,実験を通して理解させるとともに,電流が磁界との相互作用で受ける力や電磁誘導の現象などの観察,実験を行い,その結果を分析して解釈し,電流と磁界の関係性や規則性を見いだして理解させることが主なねらいである。その際,電流と磁界に関する観察,実験の技能を身に付けさせる。

㋐ 電流がつくる磁界について
 小学校では,第5学年で,電流の流れているコイルは鉄心を磁化する働きがあること,電磁石の強さは電流の大きさや導線の巻き数によって変わることについて学習している。
 ここでは,小学校での「磁石の性質」や「電流がつくる磁力」の学習と関連させながら,磁界を磁力線で表すことを理解させるとともに,電流がつくる磁界について理解させることがねらいである。
 例えば,棒磁石や電流の流れているコイルの回りに鉄粉を撒き,そこにできる模様を観察させたり,方位磁針を幾つか置いて観察させたりして,磁石や電流が流れているコイルの回りに磁界があることを理解させるとともに,磁界は磁力線で表されること及び磁石やコイルの回りの磁界の向きについて理解させる。このとき,電流の大きさによって磁界の強さが変わることや電流の向きを変えると磁界の向きも変わることを,実験を通して理解させる。

㋑ 磁界中の電流が受ける力について
 ここでは,磁界の中を流れる電流が磁界から力を受けることを,観察,実験を通して見いだして理解させることがねらいである。
 例えば,電気ブランコなどの実験を行い,電流が磁界から力を受けることを見いだして理解させる。また,電流の向きや磁界の向きを変えたときの電流が受ける力の向きの変化を調べる定性的な実験を行い,その結果を分析して解釈し,電流の向きや磁界の向きを変えると電流が受ける力の向きが変わることを見いだして理解させる。このとき,電流が磁界から力を受けることをモーターの原理と関連付けて考察させる。
 その際,簡単なモーターの製作などのものづくりを通して,電流と磁界について理解を深めさせることも考えられる。

㋒ 電磁誘導と発電について
 小学校では,第6学年で,手回し発電機などの実験を通して,電気はつくりだしたり蓄えたりすることができることについて学習している。
 ここでは,コイルと磁石の相互運動で誘導電流が得られることを観察,実験を通して見いだして理解させること,及び直流と交流の違いを理解させることがねらいである。
 例えば,コイル,磁石及び検流計などを用いて,磁石又はコイルを動かすことにより,コイルに誘導電流が流れること,磁石又はコイルを動かす向きや磁極を変えることにより誘導電流の向きが変わることを見いだして理解させる。その際,磁石又はコイルを動かす速さ,磁石の強さ,コイルの巻数などの条件を変えて実験を行い,その結果を分析して解釈し,誘導電流の大きさとの関係を見いだして理解させることも考えられる。
 日常生活や社会では,発電機などで誘導電流を発生させ利用していることを取り上げるとともに,例えば,オシロスコープや発光ダイオードなどを用いて,直流と交流の違いを理解させる。さらに,例えば,二つの手回し発電機をつなぎ一方を回転させると,他方がモーターとして働くことから,発電機とモーターとを相互に関連付けて捉えさせる。