中学校学習指導要領解説【理科編】第1分野(5)運動とエネルギーの解説

 学習指導要領

「中学校学習指導要領解説【理科編】(平成29年7月)」p52~の「(5)運動とエネルギー」についての解説です。

本文は中学校学習指導要領解説【理科編】のコピー&ペーストです。見出しや付箋、マーカーペンについては私が追記した部分ですので、ご注意ください。

先生方の研究授業やカリキュラムマネジメント、移行措置の確認などに生かしていただければ幸いです。

第1分野(5)運動とエネルギー

単元全体の枠組み

(5)運動とエネルギー
 物体の運動とエネルギーについての観察,実験などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 物体の運動とエネルギーを日常生活や社会と関連付けながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。

イ 運動とエネルギーについて,見通しをもって観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,力のつり合い,合成や分解,物体の運動,力学的エネルギーの規則性や関係性を見いだして表現すること。また,探究の過程を振り返ること。

既習事項

 小学校では,第5学年で「振り子の運動」について学習している。
 また,中学校では,第1学年の「(1)身近な物理現象」で力の基本的な働きや2力のつり合い,第2学年の「第2分野(4)気象とその変化」で圧力や大気圧について学習している。

大項目のねらい

 ここでは,理科の見方・考え方を働かせて,物体の運動とエネルギーについての観察,実験などを行い,力,圧力,仕事,エネルギーについて日常生活や社会と関連付けながら理解させるとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けさせ,思考力,判断力,表現力等を育成することが主なねらいである。

「思考・判断・表現」育成の考え方

 思考力,判断力,表現力等を育成するに当たっては,運動とエネルギーについて,見通しをもって観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,力のつり合いと合成・分解,物体の運動,力学的エネルギーについての規則性や関係性を見いだし表現するとともに,探究の過程を振り返らせることが大切である。その際,レポートの作成や発表を適宜行わせることも大切である。

特記事項・配慮事項

 なお,観察,実験で得られる測定結果を処理する際には,測定値には誤差が必ず含まれていることや,誤差を踏まえた上で規則性を見いださせるよう,表やグラフを活用しながら指導することが大切である。

(ア)力のつり合いと合成・分解
 ㋐ 水中の物体に働く力
 水圧についての実験を行い,その結果を水の重さと関連付けて理解すること。また,水中にある物体には浮力が働くことを知ること。

 ㋑ 力の合成・分解
 力の合成と分解についての実験を行い,合力や分力の規則性を理解すること。

(内容の取扱い)

ア アの(ア)の㋐については,水中にある物体には,あらゆる向きから圧力が働くことにも触れること。また,物体に働く水圧と浮力との定性的な関係にも触れること。

 ここでは,水中の物体に働く力,力の合成・分解について,見通しをもって観察,実験を行い,その結果を分析して解釈し,水中で圧力が働くことや物体に働く水圧と浮力との定性的な関係を理解し,合力や分力の規則性を見いだして理解させるとともに,力のつり合いと合成・分解に関する観察,実験の技能を身に付けさせることが主なねらいである。

㋐ 水中の物体に働く力について
 「(1)身近な物理現象」では,力がつり合うときの条件について,「第2分野(4)気象とその変化」では,圧力は力の大きさと面積に関係があることについて学習している。
 ここでは,水圧に関する実験を行い,大気圧の学習と関連付けて水中では水圧が働くことを理解させるとともに,水中にある物体には浮力が働くことを理解させることがねらいである。
 水圧については,観察,実験を通して,それが水の重さによることを関連付けて理解させる。また,水中にある物体にはあらゆる向きに圧力が働くことに触れる。例えば,ゴム膜を張った円筒を水中に沈める実験を行い,深いところほどゴム膜のへこみが大きくなることから,水圧と水の深さに関係があることを捉えさせることが考えられる。このとき,ゴム膜の上にある水がゴム膜に力を及ぼしており,水圧は水の重さによって生じていることを理解させる。また,ゴム膜の向きを変えたときのへこみ方から,水圧があらゆる向きに働いていることにも気付かせるようにする。
 浮力については,例えば,ばねばかりにつるした物体を水中に沈めると,ばねばかりの示す値が小さくなることなどから,浮力が働くことを理解させる。このとき,浮力を,例えば水中にある直方体や円柱などの物体の上面と下面の水圧の差から定性的に捉えさせる。

㋑ 力の合成・分解について
 ここでは,力の合成と分解についての実験を行い,その結果を分析して解釈し,力の合成と分解の規則性を理解させることがねらいである。その際,2力のつり合いの条件を基にして,力の合成と分解についての実験を行い, 合力や分力の間の規則性を理解させる。例えば,ばねなどを同じ長さだけ伸ばす実験を1つの力や2つの力で行い,1つの力と同じ働きをする2力があることに気付かせる。その上で,ばねの力とつり合う他の2力のそれぞれの大きさと向きを調べさせ,その結果を,作図を用いて分析して解釈し,2力の合成について理解させる。さらに,力の合成の考え方とは逆に,1つの力と同じ働きをする2つの力を考えることができることから,1つの力は向きの異なる2つの力に分解できることを理解させる。
 この学習では,日常生活で目にする事物・現象と関連させながら様々な力が働いていることに気付かせるようにすることが大切である。

(イ)運動の規則性
 ㋐ 運動の速さと向き
 物体の運動についての観察,実験を行い,運動には速さと向きがあることを知ること。

 ㋑ 力と運動
 物体に力が働く運動及び力が働かない運動についての観察,実験を行い,力が働く運動では運動の向きや時間の経過に伴って物体の速さが変わること及び力が働かない運動では物体は等速直線運動することを見いだして理解すること。

(内容の取扱い)

イ アの(イ)の㋐については,物体に力が働くとき反対向きにも力が働くことにも触れること。

ウ アの(イ)の㋑の「力が働く運動」のうち,落下運動については斜面に沿った運動を中心に扱うこと。その際,斜面の角度が90 度になったときに自由落下になることにも触れること。「物体の速さが変わること」については,定性的に扱うこと。

 ここでは,物体の運動に関する現象について,日常生活や社会と関連付けながら,見通しをもって観察,実験を行い,その結果を分析して解釈し,物体に働く力と物体の運動の様子,物体に力が働くときの運動と働かないときの運動についての規則性を見いだして理解させることが主なねらいである。その際,力と運動に関する観察,実験の技能を身に付けさせる。

㋐ 運動の速さと向きについて
 「(1)身近な物理現象」で,力の働きによって運動の様子が変わることについて学習している。
 ここでは,物体の運動の様子を詳しく観察し,物体の運動には速さと向きの要素があることを理解させることがねらいである。
 例えば,日常生活の中で見られる物体の多様な運動の観察を通して,物体の運動には速さと向きの要素があることを理解させる。このとき,振り子,放物運動をする物体,車などの物体の運動について,デジタルカメラで連続撮影した画像,ストロボ写真で撮影した画像,録画した動画のコマ送り画像を提示するなど,映像などを活用することによって,より効果的に生徒の理解を促す工夫をすることも考えられる。
 その際,物体に働く力と物体が運動することに関連して,力は物体同士の相互作用であることに気付かせ,物体に力を加えると力が働き返されることを日常生活や社会の経験と関連付けて理解させる。例えば,ローラースケートを履いた人同士で,一人がもう一人に力を働かせると二人とも動き出すことなどの体験と関連させ,互いに力が働き合うことに気付かせることも考えられる。その際,作用・反作用の働きについて触れる。

㋑ 力と運動について
 ここでは,運動の様子を記録する方法を習得させるとともに,物体に力が働くときの運動と働かないときの運動についての規則性を見いだして理解させることがねらいである。
 例えば,力学台車などを滑らかな水平面上で運動させ,一定の大きさの力を水平に加え続けたときの運動と力を加えないときの運動を比較する。また,加える力の大きさをいろいろと変えたときの運動の様子を予想して実験を行い,その結果を分析して解釈し,加える力が大きいほど速さの変わり方も大きいことを理解させる。それらの運動を,記録タイマーで記録したテープから単位時間当たりの
移動距離を読み取らせ,結果を表やグラフにして,それらを用いて分析して解釈し,「時間と速さ」の関係や「時間と移動距離」の関係の規則性を見いだして理解させる。そして,物体に力を加え続けたときには,時間の経過に伴って物体の速さが変わることを理解させる。このとき,課題に対して実験方法や考察が妥当であるか検討したり,新たな問題を見いだしたりするなど探究の過程を振り返らせることが考えられる。
 一方,物体に力が働かないときには,運動している物体は等速直線運動を続け,静止している物体は静止をし続ける性質があること,すなわち,慣性の法則を理解させる。
 落下運動については,斜面に沿った台車の運動を中心に調べ,斜面上の台車の運動と斜面上を動く台車に働く力の大きさについて,実験を計画して行い,その結果を分析して解釈する活動が考えられる。その際,一定の力を加え続けた場合の水平面上の物体の運動と比較するなど探究の過程を振り返らせることも考えられる。また,斜面の角度が90 度の場合は自由落下となり,速さの変わり方が最も大きくなることについても触れる。
 なお,運動の変化の様子については,記録タイマーなどによる測定結果の考察だけでなく,物体の運動の様子を直接観察したり,録画した映像で確認したりして,その傾向を捉えさせる。

(ウ)力学的エネルギー
 ㋐ 仕事とエネルギー
 仕事に関する実験を行い,仕事と仕事率について理解すること。また,衝突の実験を行い,物体のもつ力学的エネルギーは物体が他の物体になしうる仕事で測れることを理解すること。

 ㋑ 力学的エネルギーの保存
 力学的エネルギーに関する実験を行い,運動エネルギーと位置エネルギーが相互に移り変わることを見いだして理解するとともに,力学的エネルギーの総量が保存されることを理解すること。

(内容の取扱い)

エ アの(ウ)の㋐については,仕事の原理にも触れること。
オ アの(ウ)の㋑については,摩擦にも触れること。

 ここでは,力学的な仕事の定義を基に,仕事とエネルギー,力学的エネルギーに関する現象について,日常生活や社会と関連付けながら,見通しをもって観察,実験を行い,その結果を分析して解釈し,仕事とエネルギーの関係,位置エネルギーと運動エネルギーの互換性,力学的エネルギーの保存性を見いだして理解させることが主なねらいである。その際,衝突の実験で測定される力学的エネルギーを量的に扱うことができることを理解させるとともに,力学的エネルギーに関する観察,実験の技能を身に付けさせる。

㋐ 仕事とエネルギーについて
 ここでは,仕事に関する実験を行い,日常の体験などと関連させながら力学的な仕事を定義し,単位時間当たりの仕事として仕事率を理解させる。また,外部に対して仕事をできるものは,その状態においてエネルギーをもっていることを,各種の実験を通して理解させることがねらいである。
 例えば,物体を重力に逆らって持ち上げる仕事をさせ,物体に加えた力の大きさとその向きに動かした距離の積として仕事は定量的に定義できることを理解させる。さらに,単位時間に行う仕事の量として仕事率を理解させる。仕事の単位としてジュール(記号J)を用い,関連する単位や日常用いられる単位にも触れる。そして,例えば,てこや滑車などを挙げながら,道具を用いて仕事をするとき,加えた力より大きい力を外部に出すことはできるが,道具に与えた仕事以上の仕事を外部にすることはできないという仕事の原理にも触れる。
 また,例えば,高いところにあるおもりや,引き伸ばされたばね,運動している物体は,他の物体に仕事をすることができることから,エネルギーをもっていることを理解させるとともに,力学的エネルギーには,位置エネルギーと運動エネルギーがあることを理解させる。
 位置エネルギーについては,例えば,物体を鉛直方向に落下させる衝突実験を行い,高いところにある物体ほど,また,質量が大きいほど,大きなエネルギーをもっていることを理解させる。運動エネルギーについては,例えば,水平面上を動く物体の衝突実験を行い,物体の質量が大きいほど,速さが速いほど,大きなエネルギーをもっていることを理解させる。その際,物体の高さや質量,速さなどの条件を制御して実験を行い,その結果を分析して解釈し,その規則性を見いだして理解させるようにする。

㋑ 力学的エネルギーの保存について
 ここでは,力学的エネルギーに関する実験を行い,運動エネルギーと位置エネルギーが相互に移り変わることを見いださせ,摩擦力が働かない場合には力学的エネルギーの総量が保存されることを理解させることがねらいである。
 例えば,振り子の運動の様子を観察させ,物体の位置が低くなるに従って物体の運動は徐々に速くなること,最下点を過ぎて物体の位置が高くなるに従って物体の運動は遅くなることから,位置エネルギーと運動エネルギーとは相互に移り変わることに気付かせ,力学的エネルギーは保存されることを理解させる。
 また,実際の物体の運動では,摩擦力や空気の抵抗などが働くことに触れ,力学的エネルギー以外の音や熱などに変わり,力学的エネルギーは保存されないことを日常生活や社会と関連付けて理解させる。