指導と評価の一体化を4つのスタンプで実現する

 理科の工夫・改善

「指導と評価の一体化」について、先生方もいろいろ工夫されていると思います。
また、若い先生が指導や助言としてよく言われることの一つだと思います。

そこで、私の「指導と評価の一体化」の工夫についてまとめます。とても現実的で、具体的で、目で見てわかる方法です。すぐにでも授業に取り入れることができます。

使うものは市販されている評価印、いわゆる「先生向けのスタンプ」というものです。できればスタンプ台のいらない「浸透印」タイプがおすすめです。

スタンプで指導と評価の一体化を実現する方法

4種類のスタンプを使って、机間巡視をしながら生徒一人ひとりのノートやワークシートを見ていきます。できていればスタンプを捺し、できていなければ指導や助言をします。授業中に3~4回くらい見て回れれば、ほぼ全ての生徒を評価できます。

順を追って説明していきます。スタンプがないと多少の出費が必要かもしれませんが、多くの先生はすでにお持ちだと思います。

評価印のスタンプを4つ用意する

スタンプの種類は4種類を用意します。これは一般的な「関心・意欲・態度」「思考・表現」「技能」「知識・理解」の4つに対応しています。

国語科は5観点になりますので5種類あればいいと思います。今は新しい学習指導要領に対応するために、評価の観点を3つに切り替えた学校もあるかもしれません。

スタンプの側面に、テプラで「関意」「思表」「技能」「知理」と略したシールを作って貼ります。机間巡視のときには1つだけ持っていくのですが、どのスタンプだったかな?とならないための工夫です。

また、これらのスタンプは他の用途には使いません。単元の最後におこなう評価印の集計の際に、生徒も先生も混乱してしまうからです。もし、評価に含めないスタンプが必要であれば、それは別に用意しましょう。私もただの「見ました」のハンコがあります。

各質問や発問について評価項目、評価基準を決める

授業中に生徒に質問や発問を行いますので、その内容に合わせて評価を行うことになります。指導案を書いていれば、評価項目も書かなくてはいけませんから、それと同じようにして評価について考えてから授業に臨みます。

1時間の授業で4観点全てを評価する必要はありません。1時間で2観点の評価ができれば十分だと思います。 多くて3観点ですが、そうすると今度はこの時間で何を身につけさせたいのか焦点化されてきません。1時間の授業で3つの発問をしたとしても、そのうちの2つを評価の対象にしていきます。

理想は4観点と言われそうですが、1人の教師が3~40人の生徒を50分で4観点全てについて評価するのは現実的に無理です。評価のために授業をしているようなことになりかねません。 単元を通して万遍なく評価できればいいのです。その中には実験・観察やレポート提出、単元テスト、定期テストの評価もあります。 無理は禁物です。

さて、その発問は4観点のどれと対応した発問でしょうか。評価規準をきちんと決めておきます。
そして評価基準を決めます。B基準はどこでしょうか。どうなったらA基準でしょうか。
それと同時にC基準の生徒に対してどのような指導・助言ができるかも検討しておくといいでしょう。

ただ、どのような指導・助言が効果的か分かるようになるには修業が必要です。そこで、単純にB基準に達していない生徒はC基準だと判断します。その場でその生徒に合った指導・助言を与えるという教師修業には、きっと終わりがありません。

机間巡視をして個別指導を行いながらスタンプを捺す

授業が始まったら次のようにします。質問や発問をして書かせることがあります。もしくは一通り黒板に書いて「写してください。」と促すときがあります。

この時間が机間指導の時間です。すぐにスタンプを1つもって歩きはじめます。生徒のノートやワークシートを見ながら、B基準に達したものにはどんどん捺していきます。

指導案(略案)で「技能」について評価すると決めてあったなら、机間指導のときに今回は「技能」について評価するぞと思いながら、生徒一人一人のワークシートを見て、OKだったらスタンプを捺すわけです。次の発問で「知識・理解」を評価するのであれば、スタンプを持ちかえてもう一周します。

B基準であればスタンプ1つ,A基準に達していればスタンプを2つ押します。C基準であればどうしてスタンプを捺さないのか、個別に支援して理解させていきます。

生徒は「スタンプをもらえた。」=「自分はちゃんと書いたんだ。」「先生はちゃんと見てくれたんだ。」と自己肯定感を得ることができます。スタンプは点数化されて評価に組み込まれることを説明しておきますが、生徒は点数なんか気にしていないくらい、スタンプが捺されることを望みます。

どんどんスタンプを捺していくための工夫の1つは、スタンプ台のいらない浸透印タイプを使うことです。片手でスタンプが捺せますし、もう片方の手で指差し指導ができるからです。

もう一つの工夫は、見るところを決めておくことです。何が書いてあればいいのか、間違いやすいポイントで間違えていないか、1巡目でどこを見るか、2巡目でどこを見るかと決めておきます。

4種類のスタンプを捺す基準について

4観点ごとのスタンプを捺す基準を示します。上記の通り決めておけば、難しいことはありません。その場で思いつきで評価するのは、いつの間にか「思考・表現」のスタンプばかりになるなど、単元全体の評価設計を崩すことになるので気をつけましょう。

「関心・意欲・態度」のスタンプを捺す基準

私の場合、授業でいちばん捺しているスタンプです。ペーパーテストでは測りにくく、普段の授業での評価が重要になってくるからです。簡単に言えば、生徒が板書事項をきちんと写していたら「関心・意欲・態度」のスタンプを1つ捺しています。

私が口頭で説明したことや、自分で気づいたこと、メモ書き程度の図などを書いていたら、スタンプを2つ捺しています。そういったものが書かれることは、自分が全員に達成してほしいと考えているB基準を上回っているからです。

それに至っていない生徒はC基準です。その発問・質問に対して興味をもっていない、授業に参加していないのです。「まずは黒板を写してごらん。」と促します。書けばスタンプがもらえますから、生徒も何とか頑張ろうとします。

書きながら興味をもってくれればこちらとしても嬉しいですし、どうしたらその生徒の興味を引けるのか考えるようにします。このスタンプを取り入れてから、書きもしない生徒というのは今の所いません。

「思考・表現」のスタンプを捺す基準

実験のあとの考察などを書かせて、適切な内容が書いてあれば「思考・表現」のスタンプを1つ捺します。この適切な内容を見極められるように、使うべきキーワードなどをしっかりと確認しておきます。

さらに、実験がうまく行かなかった場合でも、その理由をしっかりと分析しているものには1つ捺します。よく「実験が失敗だった。」と言って考えるのをやめてしまう生徒がいますが、「実験に失敗はないんだよ。その結果が出た理由をしっかり考えてみよう。」と励ましています。

個人で考えさせて評価したい場合には「まずは一人で考えてみましょう。」と言ってからスタートします。これで自力解決できる力のある生徒にはスタンプが捺せます。その後「班で話し合ってみましょう。」と促すと、中心になって話している生徒がいます。その内容をうまく聞き取ってあげれば、スタンプが捺せます。

最後まで書けず、班で話し合って解決してようやく書けた場合、声をかけて内容を理解したかどうか簡単に質問します。うまく答えられればスタンプを捺します。周りの生徒のフォローが入ってもいいと思います。

「技能」のスタンプを捺す基準

実験や観察を積極的に行っていれば、スタンプが捺せます。ここは活動がありますので、こちらも目で見て分かりやすいところです。

しかし、生徒の中には手を出さずに目だけで見て実験をする生徒もいます。優位感覚でいうところの「視覚優位」の生徒です。ですから、実験を一緒にやっていないから即ダメとはしません。その生徒の目の動きなどを観察して、友達がやっているのを見て自分がやったと思っている生徒にはスタンプを捺します。

もちろん疑似体験と実際に体験することは違うと思いますので、「順番にやってみよう。」とか「交代しながらやるようにしよう。」などのように全体に投げかけたり、「同じようにやってみたら?」と直接その生徒に声をかけたりします。

実験・観察以外でも、技能の評価をする場面はあります。例えばグラフを描くことを「表現」として見るのではなく、「描く技術」と見る場合です。スケッチも同じように「影をつけていないか」「線を重ねずに描いているか」などを見る場合は「技能」として評価していいと思います。

「知識・理解」のスタンプを捺す基準

知識・理解の評価はペーパーテストで測ることが可能です。定期テストや単元テスト、ミニテストなどで評価するのが一番確実ですので、授業中に評価することは少ないです。それでも、知識として知っておいてほしいことが書けていたら、理解しておいてほしいことが書けていたら、スタンプを捺すようにします。

「興味があるけれど覚える気はない。」というのでは捺せないのですが、そこの見極めは難しいです。やはり、こちらが言ったことや黒板のすみにメモしたことを一生懸命書き取っている場合には、評価してあげたいと思います。

基本的にワークシートやノートに書き写していればスタンプを捺します。しかし、興味がなくても、覚える気がなくても、書くことはできます。スタンプがほしい、点数がほしいという生徒です。生徒のそういった様子を見極める必要がありますが、まずは書くことから始まるのだと考えています。

単元の終わりにスタンプの数を数えさせる

単元の学習が終わったところで、生徒にスタンプの数を種類ごとに数えさせます。そして「単元シート」や「振り返りシート」などに記録させて提出してもらいます。

先生がノートやファイルを集めて数えてもいいのですが、膨大な作業量になると思います。いまだかつてスタンプの数をごまかした生徒はいません。先生が教壇に立って見守れば十分だと思います。

スタンプは単元の学習過程で捺していますので「形成的評価」としてそれぞれの観点の評価に、点数として加えます。スタンプ1つを何点にするかは他の評価との兼ね合いがありますので、ここでは割愛します。

評価印を使わない方法(おすすめしません)

スタンプで評価する以前の方法も紹介します。私はもうやっていません。

丸シールをつかう方法

黄色の丸シールを使って『評価OK』となったときに貼っていた時期もありました。そのときは、「思考・表現」の評価方法に悩んでいたので 「思考・表現」 の評価はできました。単元の終わりにシールの数を数えて単元ごとに評価に加えていました。

生徒はシール欲しさに頑張っていました。しかし、シールは剥がれてしまうこともありますし、他の生徒のシールを取って自分のところに貼ってしまうこともできます( いませんでしたが )。

ただ自分としては左手にシール台紙を持って、右手で貼って歩いているのがイヤになってしまいました。両手が塞がるので指導効率が下がりますし、授業の途中にシールがなくなってしまったら困ります。

ただの丸シールでは嫌だとなると、ごほうびシールとうのもありますが、出費がかさみます。おそらく自腹購入でしょうから、続かなくなります。

赤ペンを使う方法

赤ペンを持って回ったこともあります。 『評価OK』となったら丸をつけてあげればいいのです。 赤ペンであればインクが無くなる心配はほぼありません。 ただ、ねつ造されても判別しにくい(した生徒はいませんでしたが)という問題もありました。

残念ながら生徒としては価値が薄いようです。授業中はスタンプやシールのときほどの喜びはありません。テストでは丸を欲しがりますが、授業で赤丸の数を数えて評価するのは難しいです。

また赤ペンは1色ですから4観点のうち1つの観点しか評価できないことになってしまいます。他の3観点については評価のしようがなくなってしまいます。今は計算問題を練習するときなどに使っています。

板書の時間を短くするためICTを活用する

個別指導のために板書の時間を短くする

スタンプをもって机間指導を行う方法の課題は、その時間をどうやって作り出すかです。机のあいだを回りながら、評価と個別指導を行い、一人ひとりの学習を補償するのが目的です。個別指導のための時間をどうやって作り出すか、最後に紹介します。

プロジェクターを使う

授業の一番の時間のロスは、先生の板書の時間です。生徒は先生が黒板に書いている間、待っているしかできません。もしくは隙間から覗いて書き写しています。いずれにせよ効率が悪い。

私はプロジェクターとスクリーンを教室に持ち込みます。 黒板を使う代わりに、 板書内容はすべてプロジェクターを使って映しています。これで黒板に書く時間を「ゼロ」にしました。

スライドを見せながら説明や発問をして、生徒が書き出したらすぐに机間指導を開始します。

プロジェクターに何を映すのか、パソコンでパワーポイントを使って作り込んでいきます。何をどの順に映し出すのか、どんな説明をするのか、そういったことを考えることが教材研究になっています。

黒板を全く使わないわけではありません。黒板は、実験の結果や生徒が考えた考察を書くスペースです。いわゆるその場で出た生ものを書く場所です。

また、間違いやすい漢字を大きく描いたり、書き順を間違いやすい字を注意させるのに使います。その場で生徒から質問があったことを解説するのにも使います。こういったことを書き加えている生徒には、スタンプを追加で捺すこともあります。

ワイヤレスプレゼンターを使う

ただのレーザーポインターではなく、パソコンに挿してパワーポイントを操作できるワイヤレスプレゼンターを持って歩きます。

個別指導をしているときに、スクリーンの一箇所を指し示すのにも使えます。スライドを戻したり進めたりして、もう一度個別に指導するのにも使えます。教室の後ろからスクリーンの前に戻る時間も有効活用できます。

プロジェクターとワイヤレスプレゼンターと4つの評価印は、私の授業で欠かせないアイテムとなっています。

スタンプで指導と評価の一体化を実現する方法まとめ

いきなり全てをやろうとするのは難しいと思います。パワーポイントを毎時間作るのも相当大変です。私も2年がかりで作り上げました。作ってからも毎年少しずつ改良しています。

プロジェクターが毎時間確保できるかどうかも学校の設備によります。個人で買うこともできますが、なかなかの出費です。ワイヤレスプレゼンターもあると便利ですが、なくても何とかなります。

そもそもこういった道具がないと授業ができないとなってしまうのも困ります。私もあれば自分の理想とする授業ができるけど、なければないで何とか授業は乗り切れるだけの力量はつけるようにしています。

「生徒が授業に集中しない」「観点別の評価の仕方が分からない」「指導と評価の一体化に悩んでいる」という先生がいたら、まずは1個、浸透印タイプのスタンプを持ち歩いてみてください。