卒業文集のタイトルは、けっこう考えます。歌のタイトルから取ったり、本や映画から探してきたりしています。
もちろん本文とかけ離れたものにはできませんし、学級や生徒のことを考えて選ぶようにしています。
この年の文集も、わたしの気持ちが伝わりますようにと、ほんとうに悩んで決めたタイトルでした。

学級文集のタイトルにもこってましたよね?

その1年を表す特別なワードだからねー。そりゃー考えるさ。
「星に願いを…」
夕陽を見るのが好きだった。太陽が沈むとともに、赤からオレンジ、ピンクを経て紺色へ変わる、どこまでも深いグラデーションを描いて暗くなっていく瞬間が好きだった。
初めて星を見たのはいつだったろう。犬の散歩のときか、りんご園にいたときか、母親に百武彗星を見ようと誘われたときか…、夕陽が沈んだあと振り返ったときの星空が好きだった。
この町に住むようになって、海まで流星群を眺めに行ったり、近くの山まで季節の星座を見に行ったりした。海岸で流れ星を見たときは奇跡のようだった。天体望遠鏡で木星の衛星が見えたときは感動した。
星は動いているように見えて動いていない。地球が自転しながら太陽のまわりを公転しているからそう見える。星は変わらない。
コペルニクスが地動説を唱え、ガリレオが天体望遠鏡をつくり、ケプラーが何年も観測を続け、ニュートンが万有引力をひらめき、アインシュタインが相対性理論を見つけ、ハッブルが宇宙の膨張に気付いた。
政治や宗教や戦争に翻弄されながらも、彼らは変わることのない宇宙を見上げ続けた。
私たちが星を見上げて思うことは何だろう。
星は変わらない。私たちが見ている星空を、やがて地球の反対側の人たちも見ているのだ。
塾の帰りに、ゲーセンの帰りに、買い物の帰りに、デートの終わりに見上げる夜空を、戦地で銃を構えながら、飢えた子供を抱えながら、ゴミ捨て場で使えるものを漁りながら、見上げている人がいる。
私たちが星を見上げて願うことは何だろう。
地球は動いている。1日に1度ほど、気づかれないようにそっと動く。星空はまちがいなく動いていて、まちがいなく変わる。
変わらないように思える社会も、世界も、自分も、まちがいなく動いていて、まちがいなく変わっていく。
水やエネルギーが循環し、自然界のつり合いが保たれるように、私たちの喜びや優しさは循環し、世界の平和は保たれないだろうか。
人間は自分の意志で未来を変えられる唯一の生物である。私たちの地球は、私たちの隣人は、私たちの世界は、私たちの手で変えることができる。救うことができる。
あなたよりも弱い人がいることを、あなたよりも苦しい人がいることを、どうか忘れないでほしい。
どこかの法律ではなく、誰かの哲学ではなく、何かの星占いではなく、自分の意志で動くことを、何よりも大切にしてほしい。
あなたの中から湧いてくる意志を止めないでほしい。つらい時は空を見上げよう。がんばってください。

平成22年度の卒業生って、東日本大震災にあった年か。

2011年3月11日って、平成23年だから、そういうことね。
あれから10年以上が経ちました。あのときの3年生には、強い思い入れがあります。強く、優しく、笑顔でいてくれたらと願っています。