「中学校学習指導要領解説【理科編】(平成29年7月)」p86~の「第2分野(3)生物の体のつくりと働き」についての解説です。
本文は中学校学習指導要領解説【理科編】のコピー&ペーストです。見出しや付箋、マーカーペンについては私が追記した部分ですので、ご注意ください。
先生方の研究授業やカリキュラムマネジメント、移行措置の確認などに生かしていただければ幸いです。
第2分野(3)生物の体のつくりと働き
単元全体の枠組み
(3)生物の体のつくりと働き
生物の体のつくりと働きについての観察,実験などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 生物の体のつくりと働きとの関係に着目しながら,次のことを理解するとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けること。
イ 身近な植物や動物の体のつくりと働きについて,見通しをもって解決する方法を立案して観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,生物の体のつくりと働きについての規則性や関係性を見いだして表現すること。
既習事項
小学校では,第3学年で「身の回りの生物」,第4学年で「人の体のつくりと運動」,第5学年で「植物の発芽,成長,結実」,第6学年で「人の体のつくりと働き」,「植物の養分と水の通り道」について学習している。また,中学校では,第1学年で「(1)いろいろな生物とその共通点」について学習している。
大項目のねらい
ここでは,理科の見方・考え方を働かせ,生物の体のつくりと働きについての観察,実験などを行い,細胞レベルで見た生物の共通点と相違点に気付かせ,生物と細胞,植物と動物の体のつくりと働きについての規則性や関係性を見いだして理解させるとともに,それらの観察,実験などに関する技能を身に付けさせ,思考力,判断力,表現力等を育成することが主なねらいである。
「思考・判断・表現」育成の考え方
思考力,判断力,表現力等を育成するに当たっては,身近な植物や動物の体のつくりと働きについて,見通しをもって課題を解決する方法を立案して観察,実験などを行い,その結果を分析して解釈し,生物の体のつくりと働きについての規則性や関係性を見いだして表現させることが大切である。その際,レポートの作成や発表を適宜行わせ,科学的な根拠に基づいて表現する力などを育成することも大切である。
特記事項・配慮事項
なお,生物の体のつくりと働きを総合的に理解することを通して,生命を尊重する態度を育成することが重要である。
(ア)生物と細胞
㋐ 生物と細胞
生物の組織などの観察を行い,生物の体が細胞からできていること及び植物と動物の細胞のつくりの特徴を見いだして理解するとともに,観察器具の操作,観察記録の仕方などの技能を身に付けること。
(内容の取扱い)
ア アの(ア)の㋐については,植物と動物の細胞のつくりの共通点と相違点について触れること。また,細胞の呼吸及び単細胞生物の存在にも触れること。
ここでは,身近な生物の組織の観察,実験などを行い,全ての生物が細胞でできており,細胞は生物体の構造の単位であること,細胞には様々な形のものがあること,どの細胞も共通の基本的なつくりをもっていること,また,植物と動物の細胞とで異なるつくりがあることを見いだして理解させるとともに,適切な観察器具の扱い方や観察記録の取り方などを身に付けさせることがねらいである。
㋐ 生物と細胞について
「(1)いろいろな生物とその共通点」の学習では,生物の外部形態の観察をしている。
ここでの細胞の観察に当たっては,細胞を染色したり,顕微鏡の倍率を変えたり,スケッチを行ったりして,顕微鏡を用いた観察の仕方を身に付けさせる。観察記録に基づき植物細胞と動物細胞を比較しながら共通点と相違点を見いださせる。共通点としては,植物と動物の細胞に核,細胞質があること,相違点としては,植物細胞には細胞壁があり,葉緑体や液胞が見られるものがあることに気付かせる。その際,生物の体は同じ形や働きをもった細胞が集まって組織を,何種類かの組織が組み合わさって器官を構成していることにも触れることが考えられる。
また,細胞が物質を出し入れして呼吸をしていることや,生物には一つの細胞からなるものがあることにも触れる。
なお,細胞分裂などについては「(5)生命の連続性」で扱う。
(イ)植物の体のつくりと働き
㋐ 葉・茎・根のつくりと働き
植物の葉,茎,根のつくりについての観察を行い,それらのつくりと,光合成,呼吸,蒸散の働きに関する実験の結果とを関連付けて理解すること。
(内容の取扱い)
イ アの(イ)の㋐については,光合成における葉緑体の働きにも触れること。また,葉,茎,根の働きを相互に関連付けて扱うこと。
ここでは,植物の葉,茎,根の観察,実験を通して,植物の体のつくりの共通性と多様性に気付かせるとともに,植物の体のつくりと働きを関連付けて捉えさせるなど,植物の生命を維持する仕組みについて理解させることがねらいである。
㋐ 葉・茎・根のつくりと働きについて
小学校では,第6学年で,葉に日光が当たるとデンプンができることや,植物の体には水の通り道があり,根から吸い上げられた水が,主に葉から蒸散により排出されることについて学習している。
ここでは,観察によって,種子植物の葉,茎,根の基本的なつくりの特徴を見いだすとともに,それらを光合成,呼吸,蒸散についての実験の結果と関連付けて捉えさせ,植物の体のつくりと働きについて,水など物質の移動に注目しながら総合的に理解させる。
葉については,葉の構造を観察し,その観察結果と光合成,蒸散とを関連させて考察し,葉のつくりと働きについて理解させる。
葉の働きについては,光合成を行う器官であることや,光合成は光のエネルギーを利用して,二酸化炭素と水からデンプンなどの有機物と酸素を生じる反応であることを理解させる。また,光合成が細胞中にある葉緑体で行われていることにも触れる。さらに,呼吸により酸素が吸収され二酸化炭素が放出されていること,葉では気孔で気体の出入りが起こっていることを理解させる。その際,光合成と呼吸が気体の出入りに関して逆の関係にあることに注目させることが大切である。
例えば,光合成に必要な物質や環境条件について,小学校での植物に関する学習を基に,見通しをもって実験の条件を検討し,実験の計画を立案させることが考えられる。その際,植物の成長に影響すると思われる要因を複数挙げて,どの要因が光合成に影響するかを考えさせた上で,具体的な実験の方法について検討させる。さらに,検討した方法で実験を行わせ,得られた結果を分析して解釈し,光合成と植物の体のつくりとの関係性を見いださせ,それらをレポートにまとめさせたり,発表させたりすることも考えられる。
蒸散については,蒸散が行われると,吸水が起こることを実験の結果に基づいて理解させる。その際,葉の断面や気孔の観察と吸水の実験の結果を分析して解釈させ,吸水と蒸散とを関連付けて理解させる。
茎や根の働きについては,水が根で吸収されること,水は根や茎にある維管束の中の道管を上昇することを茎などの断面の観察やデータと関連付けて理解させる。また,光合成によって生じた有機物は師管を通って他の部位に移動することを理解させる。
(ウ)動物の体のつくりと働き
㋐ 生命を維持する働き
消化や呼吸についての観察,実験などを行い,動物の体が必要な物質を取り入れ運搬している仕組みを観察,実験の結果などと関連付けて理解すること。また,不要となった物質を排出する仕組みがあることについて理解すること。
㋑ 刺激と反応
動物が外界の刺激に適切に反応している様子の観察を行い,その仕組みを感覚器官,神経系及び運動器官のつくりと関連付けて理解すること。
(内容の取扱い)
ウ アの(ウ)の㋐については,各器官の働きを中心に扱うこと。「消化」については,代表的な消化酵素の働きを扱うこと。また,摂取された食物が消化によって小腸の壁から吸収される物質になることにも触れること。血液の循環に関連して,血液成分の働き,腎臓や肝臓の働きにも触れること。
エ アの(ウ)の㋑については,各器官の働きを中心に扱うこと。
ここでは,動物の消化,呼吸及び血液循環や外界の刺激に対する反応についての観察や実験などを通して,動物の体のつくりの共通性と多様性に気付かせるとともに,動物の体のつくりと働きを関連付けて理解させることが主なねらいである。その際,消化,呼吸,血液循環,排出に関わる器官やそれらが組み合わさっている器官系,更に感覚器官,神経系及び運動器官などが働くことによって,動物の生命活動を維持していることに気付かせることが重要である。
㋐ 生命を維持する働きについて
小学校では,第6学年で,ヒトや他の動物について,体のつくりと呼吸,消化,排出及び循環について,また,生命活動を維持するための様々な器官があることについての初歩的な学習を行っている。
ここでは,動物の消化と吸収,呼吸,血液循環などの働きを,物質交換と関連付けて理解させることがねらいである。
消化系については,動物には消化器官が備わっており,その働きによって,食物が物理的及び化学的に消化され,栄養分が吸収される仕組みを理解させる。その際,アミラーゼ,ペプシンなど代表的な消化酵素について扱う。例えば,アミラーゼについては,唾液がデンプンを他の糖に変える働きを確かめる方法を立案して実験させることなどが考えられる。また,消化酵素の働きにより食物が小腸の壁から吸収されやすい物質に変化することを理解させる。
呼吸系については,外呼吸を中心に,肺のつくりと肺胞でのガス交換について取り上げる。また,肺への空気の出入りは横隔膜などの働きによって行われていることも扱う。肺で取り入れられた酸素が体のすみずみの細胞まで運ばれ,そこで使われ,生活するためのエネルギーが取り出され,二酸化炭素などが出されることにも触れる。
循環系については,物質を運搬する仕組みとして,心臓のつくりとその働きを中心に扱う。また,血液成分の働きについては,血漿が組織液となっていろいろな組織中の細胞と血液との間で物質の出し入れの仲立ちをしていることや赤血球や白血球などの働きについても触れる。その際,小学校での血液の循環や心臓の拍動などについての学習や,拍動数や呼吸数の変化などについての日常的な体験を想起させることが考えられる。さらに,血液中の不要となった物質を体外に排出する腎臓の働き及び栄養分を貯蔵し有害な物質を無害な物質に変える肝臓の働きについても触れる。
動物の体のつくりと働きの理解を深めるために,例えば,魚の煮干しやイカなどを解剖して内部のつくりを観察し,ヒトの体のつくりとの比較から動物の体のつくりの共通点に気付かせ,ヒト以外の動物についても,消化系や呼吸系,循環系など生命を維持する仕組みがあることを理解させることも考えられる。
これらの学習を通して,動物の体における必要な物質の吸収,血液によるいろいろな物質の運搬,不要な物質の排出といった物質の移動を,細胞や器官の働きと関連付けて総合的に理解させる。
㋑ 刺激と反応について
小学校では,第4学年で,ヒトの体には骨と筋肉があり,その働きによって体を動かすことができることについて学習している。
ここでは,動物が,外界の刺激に反応していることに気付かせるとともに,これらに関係するいろいろな感覚器官や神経系,運動器官のつくりと働きを関連付けて理解させることがねらいである。
感覚器官としては,目,耳などを取り上げ,それぞれの感覚器官がそれぞれの刺激を受け入れるつくりになっていることを理解させる。また,例えば,暗所に移動すると見え方が時間とともに鮮明になっていくことなどを体験させるなど,ヒトの感覚器官が刺激の強さに応じて調節されることを見いださせることが考えられる。
神経系の働きについては,外界からの刺激が受け入れられ,感覚神経,中枢,運動神経を介して反応が起こることを,観察,実験や日常経験などを通して理解させる。
運動器官については,骨格と筋肉の働きによって運動が行われることを扱う。その際,動物の骨格標本や人体模型などを利用することなどが考えられる。
解説の解説
1 拍動と鼓動は異なる
心臓の学習では、「拍動」という言葉が出てきます。「鼓動」ではありません。生徒たちにしてみれば、「命の鼓動」や「鼓動を感じる」などの表現のほうがなじみがあります。テストで「鼓動」と書かせないようにするには、その違いを一言話しておく必要があります。
拍動は、心臓(内蔵)の筋肉が定期的に収縮することを指します。心臓が拍動するので、心拍や心拍数というのですね。ちなみに、脈拍は動脈の拍動を指します。
これに対して、鼓動はその拍動が胸を伝わってくることです。手を当てて感じるのは鼓動ということです。
「心臓が拍動をして、胸が鼓動する。」ということになります。