学校の先生にも人事評価があります。戸惑いを感じた先生も少なくなかったのではないでしょうか。
私自身は、人事評価を「評価される場」というだけではなく、自分の仕事を振り返り、目標を見直す機会として捉えています。
面談も、評価されるためだけの時間ではありません。
「今年度、自分は何に取り組んできたのか」
「どんな成果があったのか」
「これから何を伸ばしていきたいのか」
こうしたことを考える機会として、前向きに活用できる制度だと思っています。
一方で、給与や人事など、制度そのものの仕組みについては、私には分からない部分もあります。
ただ、評価する側の先生方には、ぜひ意識してほしいことがあります。
それは、人間は、誰でも無意識のうちに評価を偏らせてしまうということです。
評価者がどれだけ公平に評価しようとしても、そこにはさまざまな「評価誤差」や「認知バイアス」が入り込む可能性があります。
だからこそ、評価者自身が「自分も偏るかもしれない」と自覚しておくことが大切なのだと思います。
人事評価は「評価力」より「バイアスとの戦い」
人事評価では、評価する人の主観を完全になくすことはできません。
むしろ、「自分の評価には、無意識の偏りが入る可能性がある」と自覚することが、適切な評価のスタートなのではないでしょうか。
学校では、日頃から一緒に仕事をしているからこそ、
「この先生は仕事ができる」
「この先生は生徒指導が得意だ」
「この先生はちょっと頼りない」
といったイメージが積み重なっていきます。そのイメージ自体が悪いわけではありません。
問題は、そのイメージが評価項目ごとの判断にまで入り込んでしまうことです。
そこで、評価者が陥りやすい代表的な評価誤差を整理してみます。
評価者が陥りやすい7つの評価誤差
① ハロー効果
一つの際立った長所や短所に引っ張られて、全体を高く、あるいは低く評価してしまう傾向です。
例えば、「授業がとても上手な先生だから、校務もきっと優れているだろう」と考えてしまうケースです。
授業力と校務遂行能力は、別々に評価する必要があります。
評価項目ごとに、具体的な行動事実を見る。
一つの事実をもって、全体の評価の方向性を決めてしまわないようにします。
② 寛大化傾向
評価が全般的に甘くなる傾向です。
例えば、「一生懸命頑張っているから、少し高めに評価してあげよう」というものです。
もちろん努力を評価することは大切です。しかし、「頑張っている」という印象だけで評価を決めてしまうと、評価基準とのズレが生じます。
「この先生が好きだから甘くなっていないか」
「厳しいことを書くのをためらっていないか」
と、自分自身に問いかけてみます。
③ 厳格化傾向
寛大化傾向とは逆に、評価が全般的に厳しくなる傾向です。
例えば、「まだまだ足りない」「これくらいできて当然」という基準で評価していると、実際の成果より低い評価になってしまうことがあります。
評価基準を改めて確認し、「自分の期待」ではなく「評価基準に照らしてどうか」を考えることが重要です。
④ 中心化傾向
多くの人を「普通」「標準」付近に評価し、差をつけることを避けてしまう傾向です。
学校では、「差をつけるのは申し訳ない」という気持ちから、この傾向が生じることもあるのではないでしょうか。
しかし、それでは本当に優れた実践や、改善が必要な部分が評価に表れません。
日頃から先生方の具体的な行動事実を把握しておくこと。
「なぜこの評価なのか」を説明できるだけの根拠を持つことが大切です。
⑤ 論理的誤謬(ごびゅう)
本来は別々に評価すべき項目を、勝手に関連づけてしまう傾向です。
例えば、「ICTが得意だから、学級経営も上手だろう」「知識が豊富だから、企画力も高いだろう」という判断です。
評価項目は、それぞれ別のものとして考える。
一度に全部の項目を評価せず、評価する順番を変えてみることも有効です。
※ ハロー効果は、一つの目立った特徴が、全体の評価に影響することです。一方、論理的誤謬は、一つの特徴から、本来は別の評価項目まで関連づけて判断することです。
⑥ 対比誤差
評価の基準を「自分」に置いて、被評価者と比較してしまう傾向です。
例えば、「私なら、この仕事はもっと早くできた」という考え方です。
しかし、評価すべきなのは「自分より優れているか」ではありません。
自分ではなく、評価基準と具体的な事実を基準にする。
⑦ 逆算化傾向
最初に最終的な評価結果を決めてしまい、その結論に合うように各項目を評価してしまう傾向です。
例えば、「この先生は最終的にB評価だろう」と先に決め、その後で各評価項目を合わせていく。これは、かなり危険な評価方法です。
評価の順序を守る。
事実 → 評価項目 → 評価 → 総合評価 この順番を崩さないことです。
3 さらに注意したい5つの認知バイアス
評価誤差には、学校の研修などで紹介されるものだけではありません。
日常的な人間関係の中で生じる「認知バイアス」にも注意が必要です。
⑧ 新近効果
最近起きた出来事を過大に評価してしまう傾向です。
人事評価は、基本的に一定期間の仕事を振り返るものです。
それなのに、「年度末に大きなミスがあった」という出来事だけで、それ以前の1年間の仕事を忘れてしまう。
これでは適切な評価とは言えません。
年間を通じた行動事実を記録しておく。
生徒指導の観察記録と同じように、先生方の記録も書いておくようにします。
⑨ 初頭効果
最初に持った印象が、その後も評価に影響し続ける傾向です。
例えば、「初任者の頃から、ちょっと頼りない先生だった」という印象を何年も引きずってしまうケースです。
しかし、人は成長します。
「今の姿」を見る。
過去の印象ではなく、今年度の具体的な行動に目を向けます。
⑩ 確証バイアス
自分の思い込みを裏付ける情報ばかり集めてしまう傾向です。
例えば、「この先生は指導力が低い」と思ってしまうと、その証拠ばかりが目につきます。
一方で、その先生がうまく対応した場面は見落としてしまうかもしれません。
反対の事実を意識して探す。
「この先生がうまくできた場面はなかったか?」と自分に問いかけてみるだけでも、見え方は変わります。
⑪ 親近効果・類似性バイアス
自分と似ている人に親近感を持ち、無意識に好意的に評価してしまう傾向です。
教科、年齢、性格、趣味、考え方など、共通点はいろいろあります。
例えば、「自分も理科出身だから、この先生の考え方はよく分かる」というところから、知らないうちに評価まで甘くなってしまう可能性があります。
「自分に似ているから高く評価していないか?」と自問してみます。
⑫ アンカリング効果
最初に得た情報を基準にして、その後の判断をしてしまう傾向です。
人事評価であれば、「昨年度の評価が高かったから、今年もきっと高いだろう」と考えてしまうケースです。
前年度の評価や周囲からの評判をいったん脇に置き、「今年度、実際に何をしたのか」を見ることが重要です。
評価者のための30秒セルフチェック
最後に、評価を書く前に確認しておきたい項目をまとめます。
□ 今年度の具体的な事実に基づいて判断しているか
□ 自分の思い込みを裏付ける事実だけを見ていないか
□ 第一印象や最近の出来事だけで評価していないか
□ 評価項目ごとに、別々に判断しているか
□ 好き嫌いが評価に入っていないか
□ 自分と比較していないか
□ 一つの長所・短所に引きずられていないか
□ 前年度の評価に引っ張られていないか
□
評価を決める前に、30秒だけ立ち止まって、これらの項目を確認してみます。
8項目の下に、四角をひとつ残しました。そこに、ご自分の評価のクセを書いてみてください。
評価の偏りをなくすことは難しい。だからこそ、まずは自分にどんなクセがあるのかを知っておく。
自分自身の傾向に気づくことができれば、それも評価者としての立派なセルフチェックです。



