【経験談】学校の先生がヤングケアラーを見つけ、支援する4+1のポイント。あきらめないで。

教育活動全体を通して
えび先生
えび先生

かに先生、新聞読みながら、めずらしく真面目な顔してどうしたんですか?あー、ヤングケアラーですか。最近よく聞くようになりましたね。

かに先生
かに先生

うん、調査が始まったのも最近なんだよね。でももちろん、こういう子供たちは昔からいたんだよ。かつてボクのクラスにもそんな生徒がいてね。

今回はわたしの過去の経験を事例として挙げています。

いまでもたびたび思い出しますし、どうしたらよかったのかと考えてしまいます。もし過去の自分にアドバイスできるなら「あきらめずに動け。いろんな人に相談するんだ。」というベタなことですね。

ヤングケアラーの問題はほんとうに難しいものです。当時のわたしには尚更です。今ならいろいろな支援の手立てがあるはずです。

子どもが子どもでいられる街に。~ヤングケアラーを支える社会を目指して~ 【厚生労働省】
子どもが子どもでいられる街に。ヤングケアラーが「自分は一人じゃない」「誰かに頼ってもいいんだ」と思える、「子どもが子どもでいられる街」を、みんなでつくっていきませんか。

  

ヤングケアラーとはどういう子供たちか。

ヤングケアラーは、法的には定義はありません。一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子ども、とされています。

日本ケアラー連盟では、次のように定義されています。家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子供をいいます。

同連盟のHPにはヤングケアラーの具体的な姿として、10個のイラストが紹介されています。

  • 障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
  • 家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
  • 障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
  • 目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
  • 日本語が第一言語でない家族や障害のある家族のために通訳をしている
  • 家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
  • アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
  • がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
  • 障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
  • 障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
日本ケアラー連盟 - ケアラーを社会で支えるために
ケアラーを社会で支えるために

 

ヤングケアラーの難しさは「お手伝い」という化けの皮

上記のような行動は、家族なんだから手伝って当然という度を越えている場合に問題になってきます。

ヤングケアラーの難しさは、当事者である子ども本人は自分がやっていることが「お手伝い」だと思っていること。自分の家庭しか知らないために、自分の状況が度を越えていると分かっていないこと。辛い、苦しいと感じていても誰にも相談できないでいることです。

子どもの年齢や成長の度合いに見合わないほどの、重い責任や負担をかけてはいけないのです。

わたしたちは、勉強や部活動に取り組む時間、友達と過ごす時間を大切にし、子どもらしく生活するための権利を守らなくてはいけません。

学校にそこまで求めるのは厳しいですか。厳しいですね。でもそんな子どもがクラスにいるかもしれない。学校にいるかもしれない。そのことは忘れないでほしいと思います。

  

「オレは親じゃない」「ワタシは同居してない」「あんた娘見といて」

わたしの経験を、個人情報をなくすために多少のフィクションを交えて話します。

わたしが教師2年目のとき、担任としてある女子生徒を受け持ちました。その生徒は授業中は落ち着かずに立ち歩き、周囲に暴言を吐いていました。給食も勝手に食べるし、制服もしわしわです。せっかく入った部活動にも顔を出しません。まだ新米だった私にとっては、なかなかにむずかしい生徒でした。

なにかヒントはないかと小学校の担任の先生に電話してみると、中学校以上の問題を起こしていたことを教えられました。教室から物がなくなる、くつが隠される、集金がなくなる、大抵のトラブルはその子が中心となっていたそうです。

 

春の家庭訪問のとき、当然のようにその子はいつまでも訪問日時の確認用紙を持ってきません。仕方なく、電話で聞いてみることにしました。

自宅の電話に掛けると男性が出ましたが、「オレは親じゃないから分からない」と言って電話を切られました。さっきのは父親だろうと訝しく思いつつも、つぎに母親の携帯電話にかけてみました。すると母親には「一緒に住んでいないから分からない」と言われてしまいました。

どういうことか理解できません。家庭環境調査には両親の名前も住所も、携帯番号も書かれています。親じゃないという父親と、一緒に住んでいないという母親。家庭訪問前ですが、書かれた住所まで様子を見に行ってみることにしました。

 

夕方です。ちょうど家から若い女性が出てきました。調査用紙にあった年の離れたお姉さんでしょう。「じゃあ赤ちゃんよろしくねー」という声と共に、さっさと行ってしまいます。

玄関先には、あの女子生徒が小さな赤ちゃんを抱っこしていました。声を掛けます。向こうもすこし驚いた顔はしていましたが、話にはのってくれました。「先生なに?」

「いまのお姉ちゃんでしょ?どうしたの?その赤ちゃんは?」「お姉ちゃんは今遊びに行った。これはお姉ちゃんの子ども。あんた見といてって言われたの。」

ますます理解できません。玄関先に腰かけて、赤ちゃんが泣かないように気をつけながら、その生徒と話をしました。教室のときのような勢いはありません。ただふつうの中学生です。

  

もちろんそれですべてが分かったわけではありません。主任に相談しながら、クラスメイトに話を聞き、両親それぞれとも話をしました。すこしずつ分かってきました。

両親は離婚したこと。親権は母親が持っていること。父親と一緒に住んでいること。出産したばかりの出戻りの姉がいるということ。

父親は同居はしているが親権は持っていないので「親じゃない」と言い、母親は実家に帰っているため「子どものことは分からない」と言う。成人したばかりの姉はまだ遊びたいと言って赤ちゃんを置いて出かけてしまう。

そんな状況です。保護者として責任もって面倒見てくれる人がいません。それどころか、中学生が炊事洗濯その他身の回りことに加えて、0歳児の世話までしているのです。それに加えて、小学校ではトラブルが起きればあいつのせいだと悪者扱いされ、教師もろくに話も聞かずに決めつけていたそうです。

 

勉強どころではありません。部活に顔を出すこともできません。いま、学校に来ているだけでも救いだったのです。給食のいただきますも待ってられないし、制服のしわを気にする余裕もないわけです。

しかし理解が進めば進むほど、どうしていいか分かりません。主任や管理職に話をしてもなかなか前に進みません。外部機関と連携してなんて言いますが、具体的にどうしたらいいか分かりません。自分の無力さを思い知りつつ、教室では笑顔で迎えてあげようと悪戦苦闘しました。

わたしは校内人事によりその1年で学年を離れました。学校を休みがちになっていくその生徒は、わたしを見かけると笑顔で手を振ってくれました。いまでもあの子どもらしい笑顔を忘れません。

ヤングケアラーを解決するために、教師にできることは何か。

ヤングケアラーの問題の難しさは、子ども自身が自分がヤングケアラーであることに気付いていないことです。

学校関係や社会福祉関係の方々にはヤングケアラーという言葉が知られてきましたが、世間一般にはまだ知らない人も多いでしょう。

ヤングケアラーについての問題を解決するために、教師にできることは何でしょうか。

1 家庭環境調査から想像してみる

各学校に家庭環境調査票のようなものがあると思います。その家族構成に未就学児はいないでしょうか。高齢者はいないでしょうか。支援学校に通っているきょうだいはいないでしょうか。調査票がすべて真実とは限りませんが、可能性を検討する、アンテナを立てることはできます。

2 ヤングケアラーのことを知ってもらう

ヤングケアラーという言葉、存在、問題を多くの人に知ってもらいましょう。差別やいじめにつながらないように注意深く、クラスの子どもたちに理解してもらうように努めます。アンテナの感度を上げましょう。そこに反応してくる子ども、クラスメイトがいるかもしれません。

3 報告・連絡・相談、決して抱え込まない

ヤングケアラーの問題は簡単ではありません。一人で抱えて解決できるような問題ではありません。アンテナが反応したら必ず報告・連絡・相談です。同僚や学年主任や生徒指導主事、教頭、校長、養護教諭など、学校にはたくさんの味方がいます。最近はスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー、スクールロイヤーなどの専門職もいます。

4 臆せずに関係機関との連携を図る

学校以外の関係機関といったら何でしょう。教育委員会、児童相談所、警察、民生委員、地域包括支援センターなどが分かりやすいところです。ほかにも自治体によって福祉課や子ども課など部署名はさまざまだと思いますが、ヤングケアラーを扱う部署が必ずあるはずです。いきなり電話するのは腰が引けるかもしれません。上司にお願いしながら、地道に進めていきましょう。

ヤングケアラーを守るためにどこまで家庭に踏み込むか

最後にもう一つ、大事なことを加えます。

ヤングケアラー問題に関わると、必ずといっていいほど「家庭のことに口を出すな」と言われます。子どものためとはいえ、どこまで家庭の問題に踏み込むか、こんどはプライバシーの問題です。

いまは学校で家庭訪問を取りやめているところも増えてきました。玄関先訪問ができればいいほうで、家の場所だけ見てくる自宅確認や、希望する家庭にだけ訪問するということもあります。

その子がその家の中で、どのような環境・状況に置かれているのかは、取り繕ったその外から推測するしかないのです。家に近づけた、家族に接触できた、それだけでも大きな一歩です。

プライバシーの侵害、不法侵入、脅迫…、言ってくる人はなんでも言ってきます。子どもの生命・財産・人権を守るために、こちらもしっかりと準備をして臨みましょう。覚悟は必要だと思います。

しかしその子の家族と対決しろと言っているのではありません。むしろ反対に、その子とその家族の味方であり、別の味方(支援者)を見つけたいんだというスタンスです。問題を間において対立するのではなく、問題を前において並んで話し合うのです。

子どもが子どもでいられる街に。~ヤングケアラーを支える社会を目指して~ 【厚生労働省】
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