平成27年度の卒業文集の原稿として書いたものです。
この年は2年生の学級担任でしたが、卒業する3年生のために書きました。授業と部活動、委員会活動で関わっていたくらいで、すべての生徒と等しく関わったわけではありません。
それでも小規模校だったので、全員の顔と名前は一致しています。何を伝えようか考えたときに、ある生徒のことが浮かんできました。
この文集はその生徒に伝わってほしいと思って書いたものです。もちろん、ひいきにしないようにしています。一般的な言葉だけれど、二人にしかわからない共通のキーワードを使うことで、「あなたのことだよ。」とさりげなく伝えたつもりです。
伝わっていても伝わらなくても、これが最後のメッセージ。しかし、もしかしたら、何回も開いて読み返すかもしれない、数年後に偶然ひらいて読むかもしれない。そのとき、伝わってくれたら、分かってくれたら嬉しいなと思っています。
【卒業文集】誰がために鐘は鳴る
「共鳴」という言葉を初めて聞いたのは、高校の吹奏楽部でのことだった。
「よく聴いてごらん。自分と周りの出している音のほかに、もう一つ上の音が聞こえるでしょう?」と言われ、トランペットを吹きながら耳を澄ませた。バンド全員の音程が揃ったとき、確かにその音が聴こえた。「それが倍音だよ。完璧に共鳴したんだ。」
「美しい音楽というのはその倍音がたくさん含まれていて、意識していなくても聴く人の心に響くんだ。」と教わった。
大学の物理化学の講義では、「同じ波長・振動数をもつものは共鳴する。音だけでなく、遠くのテレビも足元の放射線も同じだ。共鳴するとエネルギーになる。」と学んだ。
赤外線が水分子に共鳴して、物を温める。紫外線が皮ふ細胞に共鳴して、日焼けする。
電波がテレビに共鳴して、番組が切り替わる。放射線がDNAに共鳴して、傷をつける。
自然界はエネルギーを保存しているが、その間は共鳴という現象が繋いでいる。
人間はどうだろう? (あぁ、人間は共感できる。)
頑張っている人を見て、自分も頑張ろうと思う。悲しんでいる人を見て、涙が溢れる。
怒りの声を聴いて、拳を振り上げる。周囲を笑顔にする人につられて、笑みがこぼれる。
人は感動を生み出し続けているが、その間は共感という心が繋いでいる。
自分はどうだろう? (自分からは逃げられない。)
あなたの隣にいる人は笑顔でいるだろうか?どうしたら笑顔にできるだろうか?何と声を掛けたら笑顔になるだろうか?
その人の波長に合わせて、その人の心をふるわせるにはどうしたらいいのだろう?
昨日を後悔して泣く人の涙を振り払う波長…、明日を憂え恐れる人を奮わせる波長…、
遠く砂漠の地で飢えた幼な子を笑わせる波長、暗い病に伏す人を穏やかにする波長…。
そんな波長は分からない? いいや、そんなことはない。
人の努力は多様で無限であり、いくつもの可能性をもっている。
歌、ダンス、ピアノ、スポーツ、勉強、お笑い、恋愛…、あなたがどんなことに頑張っても、それに共感して感動する人がいる。
そして何よりもあなたの笑顔。あなたの笑顔はきっと人を笑顔にする。笑顔の光は誰もが放つことができ、そして誰もが受け止めることができるからだ。
辛いときはどうか耳を澄ませてほしい。遠くから何かが聞こえる。
誰かが誰かのために、鐘を鳴らしている。あなたの心はいつでもふるえられる。笑顔を見せに出てみよう。きっと誰かが笑顔で答えてくれる。
文集「誰がために鐘は鳴る」を書くにあたって
「誰がために鐘は鳴る」というタイトルは、ヘミングウェイの小説ではなく、浜田省吾から来ています。浜田省吾が好きです。中学のときからずっと好きです。このタイトルもいつか使いたいと、ずっと温めていました。
共鳴・共振と共感をつなげて考えたことから、この文集原稿はできあがりました。
負担過重になってしまっては意味がないのであまり批判はしたくないのですが、中学理科でどうして「共鳴」という言葉を教えないのか不思議でなりません。
1年生の「音の世界」の単元で、2つの音叉を並べて、片方を叩くともう片方にもその空気の振動が伝わり、音が鳴り出すという実験があります。
それなのに、それを共鳴と言うとはどこにも書かれていないのです。「空気が振動して、音が伝わりましたね。」と話して終わりなのです。
共鳴が分かれば、共振がわかります。つまり電磁波の話が分かります。そうすれば、どうしてリモコンでテレビのチャンネルが変わるのか、携帯電話がつながるのか、電波の基礎がわかります。
そこまでくると、紫外線で日焼けする理由、赤外線で物があたたまる理由、放射線でDNAが傷つくことにも理解が進むはずです。
中学生に放射線の話は難しいと言われる原因は、この音の共鳴を教えないことに一因があると考えています。
浜田省吾から、だいぶ話が逸れました。でも、そんなことを考えながら書いた原稿でした。