化学実験を行う動機づけを「ストーリー仕立て」で演出する

 理科の授業

授業には「ねらい」があります。「今日の課題」などとして示されます。小学校だと「めあて」なんてもいいますね。

導入段階で示される授業の目的を示すものです。「板書指導」の話や「ねらいとまとめ」の話や「指導と評価の一体化」の話でも出てきます。

教員側には目的がありますが、これを生徒の動機づけとして持っていくにはどうしたらいいのでしょうか?

  

特に2年生の化学実験。多くの教科書では、ホットケーキやカルメ焼きを作るところから、身近な物質を扱うようになります。

しかし、だんだんと先生も生徒も目的を見失い始めます。教科書にあるから実験するようになります。

1回の授業に慣れて、単元全体を見渡した単元設計ができるようになると、悩み始めるところだと思います。

えび先生
えび先生

うーん、どうして水素の発生まで実験するのかな?密度も入ってくるし…。

かに先生
かに先生

2年生の化学実験だね。単元の流れを考えて悩んでいるみたいだけど?

えび先生
えび先生

はい。生徒たちは1つ1つの実験は楽しそうにやるのですが、どうしても実験内容に飛躍が出てしまって、なんでやるの?って言う声が聞こえて。

かに先生
かに先生

教科書通りに進めていけば失敗は少ないけど、毎回それじゃつまらないしね。私は「ストーリー仕立て」でやるようにしています。

今回はストーリー仕立てで単元を構成し、生徒に少しでも目的意識をもたせて実験を進めていく方法を紹介します。

化学実験を「楽しかった」で終わらせてはいけない。

中学理科では、まず砂糖や食塩、重曹(炭酸水素ナトリウム)などの身近な物質をもちいて化学実験を行います。

生徒にとってはどんな実験でも楽しいものです。

しかし、気を付けないと、学習目的のないただの作業、遊びになってしまうこともあります。

りかこさん
りかこさん

今日の実験、おもしろかった。それで、何がわかったんだっけ?

このようなことになりがちです。実験の目的をきちんと把握していないためです。

かに先生
かに先生

理科教師としては残念です。悔しいです。

目的が持てて初めて、実験は意味のあるものになります。

  

化学実験を行う理由をストーリー仕立てで伝える

えび先生
えび先生

どうしたらいいんでしょうか?

どうして生徒は実験を行うのか?どうやったら生徒は目的を持って実験をやるようになるのか?

かに先生
かに先生

ストーリー仕立てにしてみたらどうかな?

目的を持って実験をするための動機付けを、ストーリー仕立てにして生徒に伝えてみてはいかがでしょうか?

私の場合は、大人気ゲームにあやかって、「ケミカル・ハザード」という名前で、ミッションという形で課題を提示しています。

 

授業の前に実験台に「ミッション(指令書)」を置くだけ

やり方はそんなに難しくありません。授業の前に実験台に「ミッション(指令書)」を置くだけです。たとえば、こんな感じです。

授業前のようす

授業前の休み時間のうちに、A4サイズでプリントアウトしたものを各実験台に置いておきます。

授業に間に合うように入ってきた生徒たちは、なんだこれは?という感じ読んでくれます。

男子はほぼ全員ですし、女子もニコニコしながら読んでいる生徒が多いです。

ツッコミどころも忍ばせておけば、生徒同士のおしゃべりも始まります。

いわゆる授業のまくらを温めることができます。

そんなタイミングでチャイムが鳴って、授業スタートです。

授業の導入

私の方からは特にこのプリントのことは解説しません。唐突に、

「というわけで、なんとか巨大ナメクジを倒さなくてはいけない。実験のやり方を説明します。」

と、授業に入っていきます。

「どうしてこの実験やるんですか?」といえば、「だって巨大ナメクジがそこまで迫ってきているから。」という理由です。

生徒がいきなり化学実験的な目的を持つわけがない

「物質の見分け方が知りたい」「有機物・無機物の違いを知りたい」そんなことを目的にしている生徒は少ないです。

ただ「ナメクジを倒すときには食塩なんだ。だから食塩を見つけなくてはならない」となれば、否が応でも実験をしなくてはいけません。

食塩を見つけるために、「有機物・無機物のことを知っていなければいけない」「物質の見分け方がわかる」ということになります。

これでようやく生徒が化学実験的な目的を持てるようになるのです。

ストーリーの目的は、設定上のものであることに留意する

ちなみに、実際のナメクジを倒したいときは、おそらくどれでも有効です。水分を吸い取ればいいだけなので、砂糖やデンプンでもいいはずです。

そこで「それらは巨大ナメクジのエサだから」という設定で、ごまかします。

吸水性のある物質であればなんでもいいというナメクジの倒し方については、授業の終わりに伝えたほうがよいでしょう。

同じく、舐めてはいけないというのも、「毒が入っているかもしれない」という設定で回避します。

「ケミカル・ハザード」指令書、ダウンロードはこちら

わたしが今までにつくった『ケミカル・ハザード』の指令書をアップしてみます。くだらないと思わずに、みなさんもストーリー仕立てで作ってみてください。

ケミカル・ハザード#01「未確認物体クギ!」

実験:物質の見分け方

上皿てんびんとメスシリンダーをもちいて質量と体積を調べ、密度を計算して物質同定を行うことを目的としています。

ケミカル・ハザード#02 「巨大ナメクジを倒せ!」

実験:粉末の見分け方

白い粉末を区別し、有機物と無機物のちがいに気が付く実験です。研究授業でも盛んに扱われるところですね。

ケミカル・ハザード#03「巨大タコ出現!」

実験:酸素・二酸化炭素の発生と確認

酸素と二酸化炭素をそれぞれ発生させて、確かめる実験です。1時間で2つの実験ですが、何とかなるはずです。

ケミカル・ハザード#04「怪獣スカンクセー」(前後編)

実験:水素・アンモニアの発生と確認

酸素、二酸化炭素をやっていれば、水素の発生はスムーズなはずです。私は全員に火をつけさせたいので、水素で1時間使っています。

アンモニアの発生は、「方法1 硝酸アンモニウムと水酸化カルシウムの反応」や「方法2 アンモニア水の加熱」あたりが多いと思います。

生徒には「方法1」を行わせています。演示で見せる「アンモニアの噴水」のときに、方法2をやってみせています。

そんなわけで、ここは2時間使っています。

ケミカル・ハザード#05「摩訶不思議なジュース」(前後編)

実験:「溶ける」とは? シュリーレン現象の観察

コーヒーシュガーなどで溶ける様子を観察させます。

「溶ける」「溶かす」という当たり前のことを意識的に見せます。物質の粒子観を育てる大切なところです。

ケミカル・ハザード#06「ノロマウイルスを中和せよ!」(前後編)

実験:酸とアルカリの中和

うすい塩酸とうすい水酸化ナトリウム水溶液の中和の実験です。

ポイントは、緑色になることが中和ではない。色が変わっているときは中和が起きている。ということです。

注意点は、BTB溶液は黄色から緑色を通り過ぎてからは、アルカリを入れても中和しているとは言わないことです。

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